brain 固い話題が続いたので、今月は少し筆者の冒険譚も交えた話を書いた。肩の力を抜いて楽しんで欲しい。先日「世界中で英語ができないのは日本人だけ!」などと発言していた或(あ)る「脳科学者」の先生がいた。余りの出鱈目さに腰が抜けるかと思った。「脳科学者」ではなく「脳がおかしくなった科学者」の間違いではないのか? 南極以外のすべての大陸に足跡を記した筆者が断言する。「世界では英語の通じない国の方が多い」と。筆者は貧乏旅行者だったので現地人と同じ宿に泊まり、同じ物を食べ、2等列車やトラックの荷台に乗って旅をした。列車の屋根に乗って一晩中走ったこともあった。車両が満杯で乗る場所が無かったからだが、無論そこで眠るのだ。列車の屋根はご存知のように「かまぼこ型」になっている。従って進行方向に直角に寝ないとバランスを崩した瞬間振り落とされる。日本ではホームがあるからあまり高いと感じないが、列車というのは地上から見上げると恐るべき高さだ。講道館柔道の初段を允許(いんきょ)されている筆者だが、寝ぼけ眼のまま放り出されたら「受け身」もへったくれもない。よくあんなことができたものだ。しかし現地の連中がみんなやっていたので、恐れも感じず真似できたのだ。つい話題がそれたが、こうして触れ合った人々の英語の通用度がどれほどのものなのか...を話す......






「現在分詞」とくれば次は「過去分詞」だ。過去分詞には謎が多い。まず「過去と何の関係もないのになぜ過去分詞と呼ぶのか?」という謎だ。これはネット上で多くの方が答えておられる。「過去形と形がそっくりだから過去分詞と呼ぶのだー!」と。しかしこれでは答えになっていない。「ではなぜ過去形と過去分詞はそっくりなの?」と、次なる問いが飛んでくるからだ。さらに「現在分詞」は「現在形」とは似ても似つかぬ形をしているが、こちらも「現在分詞」と呼んでいる。この問いに関してネット上では「一方の分詞に『過去』という名前を使ってしまったので、もう一方の分詞は仕方なく『現在』としたのだー!」と言うのだ。ここまで来ると最早「落語」である......










英語には2種類の〜ingが存在する。「現在分詞(〜している)」と「動名詞(〜すること)」だ。確かに紛らわしい。そしてこの2つは「全く別物」と説明される。本当にそうなのか? 以下の文を見て欲しい......






まず聞こう。Wake up, Tom.「起きなさい! トム!」という文がある。このTomは「何格」か? 英語には「格変化 (以下『曲用』)」というものがある。I--my--me--mineというアレである。英語はその曲用をほぼすべて捨て去ってきた「のっぺらぼう言語」である。従ってはっきりと曲用が残っているのはこの「人称代名詞」だけなのであるが、 普通の名詞にも痕跡らしきものは残っている。Tomで言えばTom--Tom's--Tom--Tom'sとなる。とすれば上の文のTomは「主格」か「目的格」のはずであるが、このいずれでもないことは中1生にもわかる。これは「呼格:vocativus[ウォカーティーウス]」という曲用なのだ。文字通り「人に呼び掛けるときに使う格」である。「呼格」は徐々に「主格」に吸収されてゆき、今では呼格を持たない「印欧(インド・ヨーロッパ)語族」の言語も多い。文から独立して存在するが故に、文中での役割を明示するための曲用をさせる必要がないからだ。ただこのTomを「主格」と教えるには流石に無理がある。「昔は『呼格』ってのがあってね...」と説明くらいはできるように、英語の先生ならしておきたい......






whetherで書き換えができる「〜かどうか」の意のif節は名詞節なので、形式主語itで受けることができるのは当然ですが...

A Comprehensive Grammar of the English Language

15.6 If cannot introduce a subject clause unless the clause is extraposed:
  • Whether she likes the present is not clear to me.
  • If she likes the present is not clear to me.
  • It's not clear to me whether she likes the present.
  • It's not clear to me if she likes the present.

もし〜」の意の副詞節のif節を受けているように見える形式主語itや形式目的語itを用いた文もたまに見受けられます:
  • It would be a shame if the United States were to allow Afghanistan to slip back into chaos.
    「もしアメリカがアフガニスタンを再び混沌に逆戻りすることを許すのなら、残念なことであろう。」
  • People would find it strange if they were charged different sums for exactly the same services.
    「もし全く同じサービスに対し異なる料金を課せられたら、人々は奇妙に思うであろう。」
上の2つ目の例文をもう少し簡単な内容の文に変えて詳しく見てみましょう:
  • People would find it strange if you said so.
    「もし君がそう言うなら、人々は奇妙に思うであろう。」
この文で、人々が奇妙に思うもの=itは「君がそう言うこと」であって「もし君がそう言うなら」ではありません......






「受動態」で「by以外の前置詞を使う受動態」というのを学習する。be surprised at ~やbe interested in ~というものだ。実はこれらは「受動態」ではないし、at/inbyの代わりでもない。ラテン語・ギリシャ語で言うところの「中動態(中間態)」と呼ばれるものだ。surprise「驚かせる」で説明しよう......




goの過去形は何故wentなのか?



中1英語の最後から「不規則動詞」なるものが登場する。wash--washed--washedと語尾に-edをつけるものを「規則動詞」。それに対してbegin--began--begunなどと変化するものを「不規則動詞」と呼んでいる。しかしこれは厳密には「間違い」だ。これらはちゃんとパターンが存在するからだ。そのパターンごとにcut--cut--cut(A--A--A型)、come--came--come(A--B--A型)begin--began--begun(A--B--C型)、buy--bought--bought(A--B--B型)...などとまとめられている。そしてそのパターンさえ暗記すれば、その場で思い出すことができる。これは立派な「規則動詞」ではないか。特に前者を「弱変化動詞」、後者を「強変化動詞」と呼ぶ。

では英語に不規則動詞は存在しないのか? 実は2つだけ存在する。それが「be動詞」と「go」だ。be動詞のam / are / is / was / wereはどう見ても「赤の他人」である。これはそれぞれ全く別の古英語の単語に起源を持つからだ。ただbe動詞の追究は後日を期す。ラテン語でもギリシャ語でも、be動詞はかなり特殊な変化をするからだ。話をgo-wentに絞る。昔はgoにはgoedという過去形があった(後述)。wentにはwendという原形があった(今も辞書に載る)。しかしgoは子を、wentは親を亡くした。そこでgowentの間で目出度く「養子縁組」が成立! 血がつながっていないから顔は全く違うわけだ。このように全く縁もゆかりもない単語を引っ張ってくる手法をsuppletion[サプリーション]「補充法」と呼ぶ。これは動詞に限った話ではない。good--better--bestbad / ill--worse--worstなどがお馴染みだ......