- 不定積分$\dis\int x\log\left(1+x\right)dx$を求めよ.
- $y = f(x) (x \geqq 0) $の逆関数を$y = g(x) (x \geqq 0)$とする. また$a, b$を$g(a) = 1$, $g(b) = 2$となる実数とする. このとき定積分\[I=\int_{a}^{b} g(x) dx\]の値を求めよ.
- 関数$P(x)$を$x\geqq 0$に対して$P(x) =\dis\int_{0}^{x} \sqrt{1 +f(t)} dt$と定める. このとき$y=P(x)$ について,定義域を$x\geqq 0$とする逆関数$y=Q(x)$が微分可能であることは証明なしに認めてよい. 関数 R(x) を$x\geqq 0$に対して
\[R(x)
=\int_{0}^{P(x)} \df{1}{Q'(v)}dv\]
と定めるとき, $R (x)$ を求めよ.
今年度から、東京工業大学と東京医科歯科大学が合併して東京科学大学になりました。その初めての入試問題。理工系学部(東京工業大学に相当)の記念すべき?第1問です。
数学が苦手な方から見ると得たいの知れない難渋な数式の羅列に見えるかも知れませんが、キチンと数学が分かっていれば、「何だか面白うそう?」解答意欲を掻き立てられる一問です。
(1)
$\dis\int x\log\left(1+x\right)dx$を見て、「バランスが悪いなぁ」と感想を持てば、こちらの勝ちです。
$\dis\int \left(1+x\right)\log\left(1+x\right)dx$なら簡単に積分できます。
\[
\begin{array}{ll}
\displaystyle\int (1+x)\log(1+x)\,\mathrm{d}x
&= \displaystyle\int\left(\frac{(1+x)^2}{2}\right)\pr\!\log(1+x)\,\mathrm{d}x \\[0.4em]
&= \frac{(1+x)^2}{2}\log(1+x)
\mn \displaystyle\int\left\{\frac{(1+x)^2}{2}\right\}\pr\!\log(1+x)\,\mathrm{d}x \\[0.4em]
&= \frac{(1+x)^2}{2}\log(1+x)
\mn \displaystyle\int \frac{(1+x)^2}{2}\cdot\frac{1}{1+x}\,\mathrm{d}x \\[0.4em]
&= \frac{(1+x)^2}{2}\log(1+x) \mn \frac{1+x}{2} + C \\[0.4em]
&= \frac{(1+x)^2}{2}\log(1+x) \mn \frac{(1+x)^2}{4} + C.
\end{array}
\]
$\dis\int x\log(1+x)\,dx
=\int (1+x)\log(1+x)\,dx-\int \log(1+x)\,dx$
で
$\dis\int \log(1+x)\,dx=(1+x)\log(1+x)-x+C$ですから
\[
\begin{aligned}
\int x\log(1+x)\,dx
&= \frac{(1+x)^2}{2}\log(1+x) – \frac{(1+x)^2}{4}
– \bigl((1+x)\log(1+x) – x\bigr) + C\\
&= \frac{x^2-1}{2}\log(1+x) – \frac{x^2}{4} + \frac{x}{2} + C
\end{aligned}
\]
(2)
まともに逆関数$y = g(x)$を求めようとしたらダメです。もともと求められませんし。
そこで、もとの関数$y = f(x)$とその逆関数$y = g(x)$のグラフが互いに直線$y=x$に関して線対称である性質を使います。まず$f(x)=x\log\left(1+x\right)$のグラフを想像します。$f(x)$は、「1次関数(比例)$y=x$」と「対数関数$y=\log{x}$を$x$軸方向に$-1$平行移動した関数$y=\log{(1+x)}$」の積です。どちらも原点$O$を通る単調増加関数ですから、その積で定義される$y = f(x)$も原点$O$を通る単調増加関数です。従って、その逆関数$g(x)$も、やはり原点$O$を通る単調増加関数であることが分かります。
$g(a) = 1$,
$g(b) = 2$は、それぞれ
$a=f(1)=\log{2}$,
$b=f(2)=2\log{3}$を意味しますので、求める定積分$I$は「$y = g(x)$のグラフが$x=\log{2}$から$x=2\log{3}$の間で($x$軸と)囲む面積」に相当します。
これを$y = f(x)$のグラフ側で解釈すれば、$I$は「$y = f(x)$のグラフが$y=1$から$y=2$の間で($y$軸と)囲む面積に相当します。従って、求める$I$は横$2$×縦$2\log{3}$の長方形から、横$1$×縦$\log{2}$の長方形と定積分$\dis\int_{1}^{2} x\log\left(1+x\right)dx$の和を引いた値になります。
(1)の結果を用いて
\[
\int_{1}^{2} x\log(1+x)\,dx
= \bigl[\,\tfrac{x^2-1}{2}\log(1+x) – \tfrac{x^2}{4} + \tfrac{x}{2}\,\bigr]_{1}^{2}
= \tfrac{3}{2}\log 3 – \tfrac{1}{4}
\]
なので、
\[
I = 4\log 3 – \log 2 – \bigl(\tfrac{3}{2}\log 3 – \tfrac{1}{4}\bigr)
= \tfrac{5}{2}\log 3 – \log 2 + \tfrac{1}{4}
\]
(3)
微分積分の基本定理$\dfrac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}x}\!\int_{c}^{x} f(t)\,\mathrm{d}t = f(x)$は数学IIでも習いました。数学IIIでは、これの拡張版$\dfrac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}x}\!\int_{c}^{g(x)} f(t)\,\mathrm{d}t = f(g(x))\,\dfrac{\mathrm{d}g(x)}{\mathrm{d}x}$ も習います。
$P(x) =\dis\int_{0}^{x} \sqrt{1 +f(t)} dt$に関しては、前者の数学II版を使えば
$\displaystyle \frac{\mathrm{d}P(x)}{\mathrm{d}x}=\sqrt{1+f(x)}$を得て、
$R(x) =\dis\int_{0}^{P(x)} \df{1}{Q'(v)}dv$に関しては、後者の数学III版を使えば
$\df{\mathrm{d}R(x)}{\mathrm{d}x}=\df{1}{Q^{\prime}(P(x))}\,\df{\mathrm{d}P(x)}{\mathrm{d}x}$を得ます。
$P(x)$と$Q(x)$は逆関数の関係にあるので、$Q(P(x))=x$ですが、これの両辺を$x$で微分すれば、
$Q'(P(x))\times \df{dP(x)}{dx}=1$つまり$=\df{1}{Q'(P(x))}=\df{dP(x)}{dx}$の関係が得られます。
これより$\df{dR(x)}{dx}=\left(\df{dP(x)}{dx}\right)^2=1+f(x)$となって、面倒な根号が消えました。
$R(x)$はこれを積分したものなので、(1)の結果を用いて、
$R(x)=\df{x^2-1}{2}\log\left(1+x\right)-\df{x^2}{4}+\df{3x}{2}+C$。
$x=0$で$R(0)=0$となるように積分定数$C$を選んで、
\[R(x)=\df{x^2-1}{2}\log\left(1+x\right)-\df{x^2}{4}+\df{3x}{2}\]
執筆:目時先生(JUKEN7月号掲載)