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「法助動詞」の謎②

前回「法助動詞」の話になったついでに全ての「法助動詞」の謎解きをしておこう。再度確認しておくが、古代には「助動詞」なるものは存在しなかった。現在の「助動詞」は、かつてはすべて「動詞」だった。従って後ろの「原形動詞」と称するものは「動詞」ではなく「原形不定詞(名詞的用法)」である。

(1)mayとmust

mayは①「~してもいい」②「~かもしれない」。mustは①「~しなくてはならない」②「~に違いない」のそれぞれ2つの意味を持つ。mayに関しては「彼は来るかもしれない。何故なら来てもいいことになっているからだ」。mustに関しては「彼は来るに違いない。何故なら来なくてはいけないからだ」で2つの意味は繋がる。

(2)mustとhave to

肯定文ではmust≒have toだが、否定文ではmustn’tが「~してはならない」。don’t have toは「する必要がない」となる。何故そうなるのか? have to doはhave something to doと補って考えれば分かり易い。「すべき事を持っている⇒しなくてはならない」だ。従って否定文なら「すべき事を持っていない⇒する必要がない」となる。一方mustはhave room for ~「~する余裕・余地がある」が原義。そして(3)にも書くが、もともと過去形であった。「~する余裕があった」から次第に「仮定法」の意味を帯び⇒「余裕があったのに(しなかった)」⇒「しなければならなかった(のに)」となった…とは、ある大学の先生の仮説である。従ってmustn’tは「~する余裕がなかった(のに)」⇒「~してしまった」⇒「~してはいけなかった(のに)」となる。またmustは「仮定法」で話者の「心の声」を表し、have toは「直説法」で客観的事実を述べているとも説明される。

(3)can / may / must / shallはもとは過去形!

古英語では「過去現在動詞」などといった意味不明な名前が付けられているが、早い話「もとは過去形だったが、現在形の動詞が使われなくなったので急遽リリーフに入った動詞」である。何とも変てこな経緯だが、古代語ではよく見られる現象だ。古代ギリシャ語には「現在完了」を「現在形」の代用に、「過去完了」を「過去形」の代用に持って来た動詞もあり、ラテン語には「現在形欠如動詞(現在形自体がそもそも存在しない)」なるものもある。話をもどす。しかしそれでは「過去形のポジションががら空き」になってしまうので、ポテン・ヒットを防ぐべく、急遽could / might / shouldという過去形を新たに作って配置した…というわけだ。ただmustだけは新たに過去形が作られることはなかった。代わりにhave toを使ってhad toとした。だがもともと過去形だったのだから「mustの過去形もmustのままでいいんじゃね?」と「一人二役」としても使われる。「話法」の単元で「mustは時制の一致の例外」とされているのはこのためだ。別に「例外」ではなく「mustは過去形にしてもmustだから(というか、こっちが元祖)」というのが真相である。ただwillだけは「過去現在動詞」には含まれない。こちらはもとからwillが「現在」でwouldが「過去」だ。

(4)mayはもとはcan「~できる」の意味!

  • May you return safe.「無事の御帰還を!」…①

「祈願のmay」と呼ばれるものだ。しかし何故「~してもよい・かも知れない」が「祈願」になるのか? まず古英語においてmayはmaganと言い、原義は「~できる=can」であった。その証拠にmightが「力」という名詞でも使われる。mightyで「力強い」だ。The pen is mightier than the sword.「ペンは剣よりも強し」という諺もある(swordの発音は[ソード])。「力がある」から「~できる・してもよい」わけだ。面白いことに古代ギリシャ語でも「~してもいい」は「δυναμαι[デュナマイ]+原形不定詞(不定形)」で表現するが、δυναμις[デュナミス]は「力」という意味だ。無論「ダイナミック」の語源である。dynamicsで「力学」だ。

  • ②( I wish / hope that ) you return safe.
    =③( I wish / hope that ) you may return safe.
    「あなたが無事帰還できることを望む」。

さて「謎解き」は簡単に書くと上記の例文のようになる。②と③どちらも「仮定法現在」だ。wishは「仮定法過去・過去完了」が有名だが、「動詞の原形(仮定法現在)」やmayも取ることができる。OED(Oxford English Dictionary)で正用法とされるようだ。尤も「受験英語」では「×」にされるので注意が必要だ。尚「倒置構文」とされているが、そもそも古代は語順が自由だから「倒置」などという概念はない。一番強調したい語が文頭に来る。ではmayが「できる」なら、canは元はどんな意味だったのか? canはknow「知っている」の意味だったのだ。やがて「~の仕方を知っている」⇒「~できる」となった。それもそのはず。canとknowはれっきとした「同語源」。canは古英語のcunnanに、knowはラテン語のgnosco [グノースコー]から古代ギリシャ語のγιγνωσκω=gignosco [ギグノースコー]にまで遡る。 [クンナン]⇒[(ク)ノウ]⇒[グノウスコー]と繋がるわけだが、共通するのはc / k / g[ク/グ]とn[ン]だけ。同語源であったとしても、時の経過とともにここまで変わり果ててしまうのだ。尚、古代ヘブライ語でも「~できる」は確か「知っている+不定詞」で表現したと思ったが、改めて調べてみたが確認できなかった。筆者の記憶違いかも知れず、この件はとりあえずサスペンド(保留)としたい。

(5)再びmustへ…

mustは古英語ではmosteと言い、手元の「古英語入門」には「may / mustの意味」とある。つまり「~してもよい」「~しなくてはならない」の2つの意味がmustのご先祖様にはあったのだ。(4)でも書いたが原義の「~する余裕がある」から「(余裕があるから)~してもいい(=may)」及び「~してもいいのに(しなかった)」⇒「しなくてはいけなかったのに(=must)」などの意味が生まれたわけである。しかし「~してもいい」の意味はmayに奪われてしまった。それゆえ現代では「~しなくてはならない」の意味だけを残すこととなったのだ。これまでの「まとめ」をすれば、「canがmayの意味を奪い、mayがmustの2つあった意味の片方を奪った」ということになる。ややこしい話である。

(6)willはなぜwon’tになるのか?

古英語期に続く中英語期(『ノルマンジー征服』以降の英語)にはwil / willのほかwol / wollという形もあった。そこでwilln’tよりwolln’tの方が「発音しやすい」ということで広まり、さらにwon’tとなったらしい。ただ疑問なのは、このwol / wollの形がどこからやってきたのか?ということだ。中英語期の「中南部の方言」から来ていると言うが、これはおかしい。「中南部」とはロンドン近辺だ。つまり「方言」ではなく「標準語」なのだ。古英語のご先祖様であるドイツ語にはwollenという形が確かに見られる。だがそれなら古英語にも存在するはずだがそれが無い。故に中英語期にどこからか入ってきたと考えられる。そこで気になるのが「ラテン語」だ。ラテン語ではvolo [ウォロー]「(私は)欲する」(vはラテン語では[w]の音)という動詞があるからだ。これが「ノルマンジー征服(1066)」とともにブリテン島にもたらされたのではないか?…と推察する。英文法は聖職者養成を目的としてラテン語文法から作られたものからだ。will wantという形がほぼ見られないのも納得がゆく。will自体がwantの意味だった(辞書で確認!)のだから、will wantではwant wantになってしまうからだ。飽くまで筆者の仮説だが…。

(7)oughtはoweの過去形

owe 物 to 人「人に借り(=物)がある」というあのoweだ。I owe what I am to my parents.「今日の私は両親のおかげ」などと使う。「借りがある」から「~すべき・しなくてはならない」わけだ。

執筆:鈴木先生(JUKEN10月号掲載)

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