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数学部

2025年度 名古屋大学 理科系入試数学 第1問:抽象的関数の論述と、具体的な関数での計算

2025年度 名古屋大学 理科系入試数学 第1問

\( \def\df#1#2{\dfrac{#1}{#2}} \)(1)実数$x$を変数とする関数$f(x)$が導関数$f'(x)$および第2次導関数$f”(x)$をもち,すべての$x$に対し$f”(x)>0$をみたすとする。さらに以下の極限値a, b(a<b)が存在すると仮定する。
\[ \lim_{x\to-\infty}f'(x)=a, \hspace{1em} \lim_{x\to\infty}f'(x)=b \]
このとき,a<c<bをみたす任意の実数cに対し,関数$g(x)=cx-f(x)$の値を最大にする$x=x_0$がただひとつ存在することを示せ。
(2)実数$x$を変数とする関数\[ f(x)=\log\left(\frac{e^x+e^{-x}}{2}\right) \]はすべての$x$に対し$f”(x)>0$をみたすことを示せ。また,この$f$に対し小問(1)の極限値$a, \, b$を求めよ。
(3)小問(2)の関数$f$および極限値a,bを考える。a<c<bをみたす任意の実数cに対し小問(1)の$x_0$および$g(x_0)$をcを用いて表せ。

旧帝大系の入試問題をぱっと眺めていたら目にとまった問題です。第1問に持ってきたってことは、自信作なのでしょう。特に(1)は抽象的な関数$f(x)$に関して論じる問題で、この手の論証に慣れていない受験生は見た目でパスしていたと思われます。

(1)1つ目の仮定:第2次導関数$f”(x)$が$f”(x)>0$とは、もとの関数のグラフ$f(x)$が常に「下に凸」という意味ですが、第1次導関数$f'(x)$が常に「単調増加」という意味でもあります。

2つ目の仮定:
\[
\begin{aligned}
\lim_{x\to-\infty} f'(x) &= a,\\
\lim_{x\to\infty} f'(x) &= b
\end{aligned}
\]
となる値a, b(a<b)が存在することを鑑みると、$f'(x)$を軸に考えればよさそうです。

最大値を考察する関数は$g(x)=cx-f(x)$なので、とりあえず微分してみましょう:
\[g'(x)=c-f'(x)\]
ここで気がつきます!
\[
\left\{
\begin{aligned}
\lim_{x\to-\infty} g'(x) &= c – \lim_{x\to-\infty} f'(x) = c – a > 0,\\
\lim_{x\to+\infty} g'(x) &= c – \lim_{x\to+\infty} f'(x) = c – b < 0 \end{aligned} \right. \] 「中間値の定理」をこの関数$g'(x)$に適応すれば、「関数$g'(x)$の値が$c-a$という正の数と、$c-b$という負の数の間にある任意の実数、例えば$0$になる$x=x_0$が少なくとも1つは存在する」ことが示されます。 懸案事項は2つ。「中間値の定理」を適用するには、対象とする区間において連続関数であることが必要です。また「少なくとも1つ存在する」までしか言えないので、「ただひとつ存在する」にはギャップがあります。 さて対象とする区間はすべての実数ですが、問題文の仮定「すべての$x$に対し$f''(x)>0$をみたす」という文言から、「すべての$x$に対し$f'(x)$は微分可能である。延いては$g'(x)$も微分可能である」ことが導けます。「微分可能な関数は連続な関数である」ことから1つ目の懸案事項はクリア。また$g'(x)$の導関数$g”(x)=0-f”(x)$は常に負であることが言えますので、関数$g'(x)$は単調減少関数です。従って、$g'(x)=0$を実現する$x=x_0$は(存在したとすれば)「ただひとつ存在する」ことが示せます。(存在することは、中間値の定理で証明済みです。)この$x=x_0$を境に$g'(x)$の符号が正から負に替わるので、確かに$g(x_0)$は最大値を与えます。

(2)ここからは単なる計算問題です。微分すると
\[ f'(x)=\frac{2}{e^x+e^{-x}}\cdot\frac{e^x-e^{-x}}{2}=\frac{e^x-e^{-x}}{e^x+e^{-x}} \]
になるので、
\[
\begin{cases}
a = \displaystyle\lim_{x\to-\infty} f'(x)
= \lim_{x\to-\infty}\frac{e^x – e^{-x}}{e^x + e^{-x}}
= \lim_{x\to-\infty}\frac{e^{2x} – 1}{e^{2x} + 1}
= \frac{0 – 1}{0 + 1} = -1, \\[1em]
b = \displaystyle\lim_{x\to+\infty} f'(x)
= \lim_{x\to+\infty}\frac{e^x – e^{-x}}{e^x + e^{-x}}
= \lim_{x\to+\infty}\frac{1 – e^{-2x}}{1 + e^{-2x}}
= \frac{1 – 0}{1 + 0} = 1.
\end{cases}
\]

もう1回微分すると
\[ f”(x)=\frac{(e^x+e^{-x})^2-(e^x-e^{-x})^2}{(e^x+e^{-x})^2}=\frac{4}{(e^x+e^{-x})^2}\]
となり、確かに$f”(x)>0$が示せます。

(3)$g'(x_0)=0$すなわち$c-f'(x_0)=0$を、題意の関数で具体的に書くと
\[c-\frac{e^{x_0}-e^{-x_0}}{e^{x_0}+e^{-x_0}}=0
\Leftrightarrow
\frac{e^{2x_0}-1}{e^{2x_0}+1}=c
\Leftrightarrow
e^{2x_0}=\frac{1+c}{1-c}(>0)
\Leftrightarrow
x_0=\frac{1}{2}\log{\frac{1+c}{1-c}}
\]
となり、このとき
\[
\begin{aligned}
g(x_0)
&= c x_0 – f(x_0) \\
&= \frac{c}{2}\log\!\frac{1+c}{1-c}
– \log\!\left(\frac{e^{x_0}+e^{-x_0}}{2}\right) \\
&= \frac{c}{2}\log\!\frac{1+c}{1-c}
– \log\!\left(\frac{\sqrt{\frac{1+c}{1-c}}+\sqrt{\frac{1-c}{1+c}}}{2}\right) \\
&= \frac{c}{2}\log\!\frac{1+c}{1-c}
– \log\!\left(\frac{1}{\sqrt{(1+c)(1-c)}}\right) \\
&= \frac{c}{2}\log\!\frac{1+c}{1-c}
+ \frac{1}{2}\log\!\bigl((1+c)(1-c)\bigr) \\
&= \frac{1+c}{2}\log(1+c)
+ \frac{1-c}{2}\log(1-c)
\end{aligned}
\]

(1)の論証問題と、(2)(3)の計算問題がバランスよく組合わさった小気味よい問題でした。

執筆:目時先生(JUKEN11月号掲載)

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