今高2の子たちが英検1級長文を読んでいる。その際JuMBOsと題された難解な長文に遭遇した(2024年度・第3回)。「ジャンボ・ジェット」や「年末ジャンボ」などつい「大きな」をイメージするが、元々はスワヒリ語で「こんにちは」という意味だ。ただしここで登場する「ジャンボ」は「宇宙空間を浮遊する巨大天体」のこと。筆者は天文学には一家言あるので、当初「楽勝だな…」と考えた。だが途中で「あれ?」となった。何度読んでもよく分からない。業を煮やしてネットで検索にかかった。やはりかなり物議を醸した文章だったようだ。受検者の当惑の声が溢れ、解説動画までアップされる有様だ。やがて難解な理由が理解できた。なまじ天文学の知識があるが故、「これ明らかに変だろ!」と憤慨する。冷静さを失うと、読めるものも読めなくなる。これは入試長文でも同様だ。自分が精通している分野が出題された場合、却って危険だと思った方がいい。全文和訳は英検教本にでも任せるとし、ここでは「語彙」を中心に解説する。
のっけからthe James Webb Space Telescope「ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡」が登場する。有名な「ハッブル宇宙望遠鏡」の後継機だ。略称JWST。地上からの観測には限界がある。そこで今日では望遠鏡も宇宙空間に設置することが多い。この望遠鏡が捉えたのがJupiter-Mass Binary Objects即ちJuMBOs。Jupiter「木星」と同じMass「質量」を持つBinary「2つ1組の」Object「物体」だ。物理でF=maと習う。このmがmassである(aはacceleration「加速度」、Fはforce「力」)。Binaryはbiだから「2つでは?」と推測できる。bicycle「二輪車」、binary scale「二進法」などがある。次にstar。天文学では「動かない星」、つまり「恒星」を指す。一方「惑星」はplanet。πλαναω[プラナオー]<希>に由来し、wander「放浪する」の意味である。「『誘惑』の『惑』だよ…」と教えてくれたのは中1の時の理科の先生だった。またお月さんなどの「衛星」はsatellite。「人工衛星」の方は、昔はartificial satelliteと言ったが今ではsatelliteでOKだ。だがもっと簡単に「恒星」はsun、「衛星」はmoonでいい。沢山あればsuns / moonsとなる。さてJuMBOsである。「この物体はstarの周囲を回って(revolve)いない」とある。「自由浮遊惑星」というやつだ。もとはどこかの恒星系に属していたと考えられ「なぜ恒星の引力(gravity)から解放され外宇宙を彷徨うことになったのか?」と話が進む。「重力加速度」のgはgravitational accelerationのg。「Gがかかるー!」などと使う。その後「恒星間の侵入者(interstellar intruder)があったが故に、その衝撃で恒星系を弾き出されたのでは?」「しかしもしそんな侵入者があればJuMBOs同士のつながり(bond)自体も破壊されていたはず…」と「仮定法過去完了」は語る。interstellar「恒星間天体」のstella [ステッラ]<羅>はstar。interは「~の間」。internationalは「国際的な」。intercontinentalは「大陸間の」。Intercontinental Ballistic MissilesでICBM「大陸間弾道弾」となる。ballisticはβαλλω[バッロー]<希>「投げる」が語源。体を投げ出すように踊るのがballet[バレイ]「バレー」なら、「投票」はballotだ。一方volleyballは全く別。vollare [ウォッラーレ]<羅>で「飛ぶ」の意。サッカーの「ボレー・シュート」もこれである。star本来の意味を知らないと、最初から袋小路に迷い込む。因みにrevolutionは「公転」、rotationは「自転」である。
第2段落では別の説が紹介される。「JuMBOsは惑星ではなくdwarfでは?」という説だ。dwarfとは「小人(こびと)」、天文学では「矮星(わいせい)」のこと。矮星にも様々ある。太陽が燃え尽きて寿命を終える最後の姿が「白色矮星」。太陽より温度が低いがそれ故寿命は長い「赤色矮星」など。だがここで登場するのはbrown dwarf「褐色矮星」。「質量が足りず太陽になり切れなかった惑星」だ。「白色矮星」「赤色矮星」は知っていたが「褐色矮星」は初耳だった。「点火する(ignite)だけの核融合に必要な質量を持てなかった天体(body)」とあり、一応brown dwarfの説明が付記される。だが「核融合(nuclear fusion)」と「核分裂(nuclear fission)」 (fusionはfundo<羅>「溶かして注ぐ」、fissionはfissus<羅>=dividedに由来。fissure「裂け目」などがある。) の区別も曖昧な方が大半だ。こんな説明されても、何の慰めにもならない。bodyという単語もheavenly bodies「天体」を知らないと辛い。「太陽になりきれなかった惑星」とくれば「木星」が頭に浮かぶ。JuMBOsもそんなもの…という説だ。次に「恒星の3/4は連星の形で存在するが、質量が小さくなると連星になる確率が急激に下がる。JuMBOsより大きな褐色矮星ですら連星になる可能性は僅か…」との説明がなされる。つまり「JuMBOs褐色矮星説」はここで却下。これが第2段落の要旨だ。「恒星の3/4が連星云々…」もまた初耳。「んなわけあるかい!」と思った。ここでもなまじの知識が理解を妨げる。実際その通りだった。「シリウスは主星と伴星から成る二連星」くらいは知っていたが、調べてみてびっくり仰天。「アンタレス(蠍座)」も「アルデバラン(牡牛座)」も二連星。「北極星(こぐま座α星)」は三連星。七連星なんてのもある。少なくとも「1つの恒星の周囲を複数の惑星が整然と回る」という従来の美しいモデルは完全に崩壊する。
第3段落では結局第1段落で紹介の「外宇宙からの侵入者説」に傾く。だがこの侵入者を一転massive star「巨大な恒星」と表現を変える。これでは「ある太陽系に別の太陽が侵入してきた…」という無茶苦茶な展開になる。果たしてこの解釈でいいのだろうか?これでは※)イマヌエル・ヴェリコフスキーの「衝突する宇宙(1950)」ではないか!最後は「JuMBOs同士の距離が近かったので、衝撃を受けてもバラバラにならずに済んだのだろう」と締め括る。ここで登場するのがproximity「近接」という単語だ。prope [プロぺ]<羅>=nearの最上級proximus = the nearestに由来する。proximate「最も近い」、approximately「およそ」はこの派生語だ。またproxima centauri「プロキシマ・ケンタウリ」という星がある。4.3光年の彼方に位置し、我々の太陽に「最も近い太陽」ということでこの名がある。
さて「interstellarつながり」で次は3I-Atlas(スリー・アイ・アトラス)だ。「Atlasによって3番目に発見されたinterstellar」の意。1番は「オウ・ムアムア(2017)」、2番が「ボリソフ彗星(2019)」だ。Atlasは「小惑星地球衝突最終警報システムAsteroid Terrestrial-impact Last Alert System」の略称。現在ハワイ、南ア、チリなどに巨大天体望遠鏡が設置され天空を睨む。巨大隕石衝突による恐竜の絶滅を教訓にしてのことだ。日本のメディアは完全スルーだが欧米では大騒ぎ。太陽系惑星周遊ツアーを楽しむalien craft「宇宙人の乗り物」さながら、太陽系の惑星の公転面(黄道面)に、僅か5度の差で滑り込んできた。太陽に接近するにつれ赤色⇒緑色⇒青色と色を変えた。木星と火星の至近距離を通過後太陽に最接近。この点を『近日点(perihelion)』と呼ぶ。Helios「太陽」のperi「周辺」という意味だ。helium「ヘリウム」は「太陽から大量に飛んでくる元素」ということでこの名がある。またπεριμετρος<希>=perimetrosは「円周率」、即ちπである。その近日点が地球から見て太陽の裏側に来るように速度とコースを変えた。地上からの観測を避けるように。地球に最接近後再び木星に向かったが、今度は何と木星の「ヒル半径(Hill radius)」ぎりぎりを通過すると見られる。「ヒル半径」とはその惑星の重力の及ぶ範囲のことだ。それ以上接近すると木星の重力圏に捕獲される。スイング・バイで加速でもするつもりか?さらに通常の彗星(comet)は太陽風を受けて尾が太陽の反対側にできる。だが3I-Atlasは何と太陽に向かって尾が伸びている(anti-tail)。ハーバード大学のアヴィ・ローブ教授も「自然の天体ではありえない」と断言する。だが「そんなの陰謀論だー!」と言う人が必ずいる。人はいつから、斯くも傲慢になったのか?宇宙はまだまだ謎と神秘に満ちている。自らを浜辺で戯れる子供に例えたアイザック・ニュートンの謙虚さに、今一度立ち返るべきであろう。
※)ユダヤ系ロシア人の医師。かつて木星の巨大火山クロノス(=大赤斑)が噴火。「ある星」が飛び出し太陽系を荒し回った。火星とニアミスしてこれを死の星に変え、月は「ロッシュの限界」を越え内部から破壊された(実際月は空洞 自転もしていない 重心が中心に無いからだ)。やがてこの星は現在の軌道に落ち着き「金星」となった…と言う奇想天外な説を唱えた。実際太陽系の惑星はみな(太陽自身も含め)北極上空から見て「反時計回り」に自転しているが、金星のそれは「時計回り」。180度ひっくり返って回転しているのだ(天王星は横倒しで回転)。
執筆:鈴木先生(JUKEN4月号掲載)
