近年急速に推し進められている英語教育四技能化の流れもあり、かつての文法偏重の英語教育を象徴するものとして暫し槍玉に挙げられることが多い「五文型」ですが、果たして「五文型」はそんなに悪いものなのでしょうか? 今一度、考えてみたいと思います。

「五文型」のはじまり

現在も日本の学校教育や受験参考書などで用いられている、いわゆる「五文型」は、C. T. Onionsというイギリスの言語学者が『An Advanced English Syntax Based on the Principles and Requirements of the Grammatical Society』(1904年)の冒頭にて述語(predicate)の形態を5つに分類したものを、細江逸記がその著書『英文法汎論』(1917年)にて用いたことから広まっていったというのが定説なようです。『An Advanced English Syntax』はすでに著作権切れしているためarchive.orgにて原本の閲覧が可能です:

Sentences are classified for purpose of Analysis according to the form of the Predicate, which may assume five principle forms.(文は、分析目的のため、述部の形態により分類され、それらは五つの主な形態をとる。)

FIRST FORM OF THE PREDICATE
In such sentences the Predicate consists of the Verb alone.(述部が動詞のみで構成される第1形態). 例:He died.(彼は、死んだ。)

SECOND FORM OF THE PREDICATE
In such sentences the Predicate consists of (1) a verb, and (2) a Predicate Adjective, Predicate Noun, or Predicate Pronoun.... (1.動詞と2.叙述形容詞、叙述名詞、または叙述代名詞から成る第2形態。) 例:He became mad.(彼は、狂った。)

THRID FORM OF THE PREDICATE
In such sentences the Predicate consists of (1) a verb, and (2) an Object.... (1.動詞と2.目的語から成る第3形態。)例:Cats catch mice.(ネコは、ネズミを、捕まえる。)

FOURTH FORM OF THE PREDICATE
In such sentences the Predicate consists of (1) a verb, and (2) two Objects.(1.動詞と2.二つの目的語から成る第4形態。)例:Cats catch miceI ask you this question.(私は、君に、この質問を、尋ねる。)

FIFTH FORM OF THE PREDICATE
In such sentences the Predicate consists of (1) a verb, and (2) an Object, and (3) a Predicate Adjective or a Predicate Noun.... (1.動詞と2.目的語と3.叙述形容詞または叙述名詞から成る第5形態。)例:They elected him Consul.(彼らは、彼を、執政官に、選出した。)
(An Advanced English Syntax, pp. 6-9)


主格補語(SVCのC)と目的格補語(SVOCのC)が「predicate adjective/noun」になっているだけで、今の日本の英語教育で流通している「五文型」とほぼ同じです。

今日の「五文型」

今日、一般的な公立教育の場合、高校1年の一学期で「五文型」について学習します。

①基本的な文のパターン
  1. S+V「〜が...する」
  2. S+V+C「〜は...である」など。
  3. S+V+O「〜を...する」
  4. S+V+O1+O2「〜に...を与える」など。
  5. S+V+O+C「〜を...と呼ぶ」など。
(三省堂Crown English Communication I, p. 12)


これらの「文型」で類別されるところの各英語表現自体は、いずれも中学英語で既習のものです。
  1. SV(一般動詞)...中1(例:三省堂New Crown①)。例文:「He practices on Sunday.」
  2. SVC(be動詞)...中1(例:三省堂New Crown①)。例文:「He is a student.」
    SVC(be動詞以外の連結動詞)...中2(例:三省堂New Crown②)。例文:「He looks happy.」
  3. SVO...中1(例:三省堂New Crown①)。例文:「He studies English.」
  4. SVOO...中2(例:三省堂New Crown②)。例文:「I will give him a present.」
  5. SVOC...中3(例:三省堂New Crown③)。例文:「You make me happy.」
基本、中学の段階では、まだS(主語)、V(動詞)、O(目的語)、C(補語)といった文の成分を表す記号については学習しません。以上の表現を中学英語で一通り学習した上で、高1の1学期にこれらを改めて整理する際に、S、V他の記号についても学習します。

ProgressやNew Treasureなどの文部省検定外教科書や、新中学問題集シリウスなどの副教材を使用している私立・国立・公立の中高一貫校の場合ですと、中2の前半でS、V他の記号も同時に学習します。また、一般的な高校受験対策の進学塾でも中3の春あたりで「五文型」を一通り学習します(例:早稲アカ)。

続く


にほんブログ村 英語ブログ 英語講師・教師へ