今は『 Vintage 』を使っているところが多いでしょうか。『 Scramble 』を使っている高校も幾つかあり、まだ『Next Stage』を使っているところも見受けられます。『Upgrade』は最近見なくなりました。日本の受験英語に特化された、その「極み」みたいな教材なので、大学附属校に通う生徒の指導においては基本実施していませんが、大学受験準備には確かに学習効率の良い教材です。
生徒が実施する分には、どれでも一冊決めたらそれを完璧に仕上げれば十分だと思います。単語集もそうですが、学校と茗溪とで違うものを2つ並行使用しても非効率的なので、高2以降から茗溪に入会した生徒の場合は高校で既に使用中のものを利用しています。中3〜高1までの生徒には事前にこちらから一冊渡します。この場合、高2・高3になった時に学校で使用するであろう同じものを渡せれば一番良いのですが、学年や英語科担当教師によって何を使用するかはコロコロ変わるので、今はとりあえず『Vintage』を渡すようにしています。
講師(つまり私)の方でも、長文読解演習や過去問演習の指導の際に、生徒が読み取れなかった文法・構文・語法に遭遇したら、その都度、生徒に手持ちの英文法・語法問題集の当該箇所を開かせてチェックを入れさせるという形で利用しています。『 Evergreen 』や『be』などの 総合英語 参考書も生徒達は大抵高校で渡されているので持っていますが、実際に何周も回してやり込むのは英文法・語法問題集の方ですし、またちょっとした復習用の問題も容易に利用できるので、こちらを使っています。(文法事項の導入時や、あるいは包括的に復習したい場合には、『Evergreen』などの総合英語の 準拠問題集 や、あるいは「 高校リード問題集 」などのちゃんとした文法問題集を実施したほうが良いです。)
生徒が実施する分には上述の通り正直どれでもいいのですが(いずれも完璧とは言いがたく一長一短で、また量的な知識詰め込み型教材なのでそんなに細かく拘ってもしょうがない)、講師の方で指導において生徒用 アンチョコ 的に利用する際に「面倒だなぁ」と思うことが度々あったりします。端的に「こんな定番表現が何でもっと分かりやすい箇所にちゃんとまとめて載っていないの?」というのに遭遇するのです。生徒の手持ちの英文法・語法問題集に載っていない、あるいは解説が不十分なものに出くわしたら、その余白に解説を書き足させたり、あるいは私の方で用意した小さなプリントをテープで貼り付ける形にしています。それはそれでいいのですが、その際、「あれ、これどこに載ってるんだったっけ、助動詞の章だったか接続詞の章だったか⋯牽引でどう調べれば見つかるんだったか⋯あるいはそもそも載っていなかったっけ⋯」と戸惑うことがしばしばあります。そうした同じ過ちを何度も繰り返すのも実に間抜けなので、忘れないよう少しづつ記録を取っていこうかと思います(改訂してくれたら一番良いのですが⋯)。
その一つが仮定法現在です。「I recommended that he write and apologize.」のような文のthat節や、「Tom whispered lest Mary hear him.」などの慣用表現、「God save the Queen.」などの祈願文において動詞が原形不定詞になるやつです。これがどの英文法・語法問題集にも満足に載っていません。どれも章1つ丸々「仮定法」に割いているのにもかかわらず、です。まず『Vintage』の場合、「和文さくいん」で文法用語を索引できるようになっているのですが、ここには「仮定法現在」の見出しは入っていません。「仮定法」の章には仮定法過去と仮定法過去完了のみ記載されています。とは言え、仮定法現在に相当する表現が冊子のどこにも全く載っていない、と言うわけでもありません。
では、どうすればいいかと言うと、まずは「英文さくいん」を「suggest that S (should) do」などの形で調べます。すると、Vintageであれば第17章「動詞の語法」にて掲載されていて、「後ろにthat節を続け、that節内では動詞の原形やshouldを用いる動詞」としてまとめられているのが見つかります。「lest S (should) V」は「for fear that S should V」の関連表現として接続詞の章に記載があります。祈願文も「和文さくいん」にはありません。助動詞mayを用いたものが助動詞の章に「祈願を表すmay」として記載されています⋯ただこちらは原形不定詞(仮定法現在)を用いたものはありません。「Suffice it to say that S V」などに関しては一切記載がありません。
『Scramble』も「動詞の語法」の章に「that節で原形またはshould+原形を用いる動詞」が記載されています。『Power Stage』の場合は「助動詞」の章に「後ろにthat+S (+should)+原形の形が続く形容詞・動詞」として載っています。いずれも「仮定法現在」という用語はなぜか頑なに使用されていません。
総合英語『Evergreen』でも「仮定法現在」の用語は使用していないようです:
いいずな書店 Evergreen
この構文では、shouldを用いずに、<動詞の原形>を用いることも多い。 She suggested that we share the cost of the meal. (p.144)
lest ⋯ should 〜、は「⋯が〜しないように」という意味を表すが、文章体のかたい表現である。なお、lestが導く節ではshouldを用いるが、アメリカ英語ではshouldは用いず動詞の原形が来ることが多い。(p. 635)
『Forest』の頃には注釈に「仮定法現在」の言及がちょろっとありましたが、いずれも牽引などには載っていません:
桐原書店 Forest
この構文では、shouldを用いずに、<動詞の原形>を用いることも多い。 She suggested that we share the cost of the meal.
参考: that節で用いる動詞の原形を「仮定法現在」と呼ぶこともある 。(p.138)
灘高校では『 ロイヤル英文法 』が採用されているそうですが、これには無論「仮定法現在」が大きく載っています。ロイヤルまでいくとさすがに高校生の「総合英語」の域を超えてしまうような気もしますが、そもそも学校の検定教科書にも「仮定法現在」は普通に出てきています:
三省堂 Crown Communication II
①仮定法現在:提案・要求・命令を表す動詞+that節
that節の中は動詞は原形(仮定法現在)。 shouldを使う場合もある 。
- Benyus suggests that we put what is good for the whole earth first.
- Our leader requested that we (should) work together.
- We insist that the problem (should) be solved immediately.
- The rule requires that this form (should) be written in English.
紙面の制限もあるので全ての表現を網羅するのは無理がありましょうが、「動詞の語法」の章で細かい動詞の用例に何十ページも費やすくらいなら、仮定法の章をもう少し拡充・整理してくれてもいいのではないかと思います⋯だいたい4技能教育を推進する学校教科書で「古くて固い」表現を実用的でないと省くのならまだ分かりますが、「古くて固い」文法・語法ばかり重箱の隅をつつくかのように尋ねてくる受験英語の対策問題集でお座なりに済ますというのはないだろう、とも思ったりします(どうせやるなら徹底的にやれと⋯)。