the rich
で「お金持ち...」という意味になることは、受験生諸君はご存じだろう。これを「the rich (people)
の省略である」と教える先生もいる。無論これは間違いだ。the rich people
では「そのお金持ちの人々」となってしまう。the rich=rich people
で「(一般に)お金持ちの人々というものは...」という意味だ。確かにthe
は「冠詞」である。冠詞は分類学上は「形容詞」なのだから、後ろに「名詞」を補いたくなる心理はわからないでもない。しかしちょっと考えれば「あれ?」と中学生でも疑問に思うはずだ。いろいろ検索してみたが、「何故そうなるのか?」を説明しているものは皆無だ。故にここからは「鈴木説」として話半分に聞き流してもらいたい。ただしこの説だとthat
とthe
のすべての謎が解けるのだ。まず念のため確認しておくと、英語ではthe
を定冠詞、a/an
を不定冠詞と呼んでいる......さてヒントはまたしても「ギリシャ語」だ。ギリシャ語の定冠詞(因みにギリシャ語に不定冠詞は無く、ラテン語では冠詞自体が存在しない)、とんでもない機能がある。何と「あらゆる品詞を修飾し、これを名詞化」してしまうのだ。まるで「スター・トレック」に登場する「ボーグ」のようだ(紙幅の関係でボーグの説明は割愛する)。例えば英語で言う
the in
などという、一見「出鱈目」とも思える表現が許される。意味は「中にある物」とか「中にいる人」だ。「人」か「物」か...は簡単に区別できる。the
はギリシャ語では曲用(格変化)を起こすので、これが「中性・単数・目的格」に変化していれば「中にある物を...」であり、「男性・複数・主格」に変化していれば「中にいる男たちは...」となる。さらにこの冠詞は「節(S+V
)」すら修飾し名詞化する。the S+V
とすれば「S+V
であること・である事実」となるわけだ。ここで「あ!」と気づかれた方は流石である。そう「~ということ」の
that S+V
と、使い方が酷似しているのだ。実は「that
とthe
は同根語」なのである。また研究社の大英和辞典を紐解くと「το[ト]
と同根」ともある。το
はギリシャ語の定冠詞で中性・単数の形だ。that
はthis
と仲良く並んで中1の最初に登場する。だから「兄弟」のようなイメージがある。しかしthis
とthat
は、実は「赤の他人」なのだ。同時にお披露目を済ませたにも拘わらず、this
はその後まったく「泣かず飛ばず」。一方that
は「指示代名詞」「接続詞」「関係代名詞」「関係副詞」...と、まさに英語という言語はthat無くしては「日も夜も明けぬ」ほどの「大車輪」「八面六臂(ぴ)」の活躍ぶりだ。無論「異説」もある。
that
は「後方照応のthat
」だというのだ。「後方照応」とは、後ろに登場する内容を前もって予言する機能である。I think that he is rich.
「私は彼がお金持ちだと思う」で考える。I think that. + He is rich.
「私はこう(=that)考えるんだ。彼がお金持ちだ...とね」
that=he is rich
でこの2つを「同格」と考えるわけだ。しかしそもそもthat
に後方照応の機能というのは無いはずだ(this
にはある)。「いや。昔はthat
がその機能を有した時期もあった!」というのがこの「異説」の骨子である。確かにこの説にも一理ある。ギリシャ語にもその痕跡が残っているからだ。「~ということ・・」のthat
はギリシャ語ではότι[ホティ]
と言うが、これはό(=the)+τι(=something)
と分解できる。つまり「そのある物⋯」の意だ。とすれば「後方照応のthat
」と考えられないこともない。正直よくわからない。次は「関係代名詞」である。以下の2つのセンテンスを比べていただきたい。
Look at the boy who is running over there. ①「あっちを走っている少年を見てごらん!」
Look at the boy that is running over there. ②「同上」
who
を使った文の謎解きはこうだ。
Look at the boy who is running over there. ①
「少年を見てごらん。⇒少年ってだれ?⇒あっちを走ってる少年のことだよ。」
that
は...Look at the boy that ( boy ) is running over there. ②
「少年を見てごらん。⇒その少年って⇒あっちを走っている少年のことさ。」
that
ではなく冠詞the
を使うのだが、the=that
と考えれば、そのまま英文に置き換えられる。ギリシャ語を勉強していると、兎に角英語との共通点ばかりが目に入る。歴史的には全く接点がないにも拘わらず...だ。さまざまな学問的知識(西洋のすべての学問は古代ギリシャ発・さらに正確に言えば古代エジプト発)や聖書(新約聖書の原典はギリシャ語・旧約聖書もギリシャ語を経由)とともにブリテン島に流れ込んだものなのか? それとも元々インド・ヨーロッパ語族が内包する言語遺伝子(そんなものが存在すれば...の話だが...)が、ヨーロッパ大陸の東の端と西の端でたまたま別個に発現したものなのか。それは筆者にもわからない。そもそも英文法をギリシャ語的視点から解析している学説が、ほとんど皆無であるからだ。どなたか御存知の方がいらしたらご教授願いたい。
最後に、「関係代名詞」は、歴史上は「古英語」の時代に
that
がまず登場し、次にwhich
が14世紀ころ。17世紀あたりになってやっとwho
が登場した...とされていることを付け加えておく。who
の登場以前は「人」でも「物」でもwhich
が使われていたようだ。どうして新しい関係代名詞が次々に登場したかは定かではない。因みに「古英語」とは「ノルマンジー征服<1066>」以前に使われていた英語のことだ。まだまだ「that
とthe
の謎」は尽きないので、いずれpart-2を書きたいと思っている。