• The teacher taught us that the earth is round.
    「先生は、地球が丸いと教えてくれた」
これをthe earth was roundとやってはいけない...というのが「時制の一致の例外」だ。だが何故「過去形」ではいけないのか? 改めて聞かれると答えに詰まる。「過去」も「地球」は丸かった。「現在」でも「丸い」。そして「未来」でも「丸いであろう」ということから、「真ん中を取って現在形か!」などと筆者は高校生のころ勝手に考えていた......

しかし既に書いたが英語には「未来形」など無いのだからこの理屈はおかしい。ましてや「真ん中を取って云々...」など、ありえようハズもない。

この謎はギリシャ語で「過去形」を何と言うか知っていればすぐに解ける。ギリシャ語で過去形を「アオリスト」と言う。αὁριστος=ahoristos [アオリストス]と書き、a+horizo (=ὁριζω)と分解できる。aは何度も登場した。ギリシャ語で「反対語」を表すaだ。atom「原子・アトム(これ以上切る<tom=tome=τομη=cut>ことができないもの)」の「ア」である。このaが英語に入ってunとなったことも...。

一方horizo [ホリゾー]は「境界線を定める・制限する」で、こちらもhorizon「地平線・水平線」として英語にその名残をとどめる。地平線とは「空と大地の境界線」のこと。「空と大地が~♪♪」と、久保田早紀の「異邦人」にもあるとおりだ。つまり「アオリスト」は「境界線を定めない⇒制限がない」という意味になる。では「何に対して」制限がないのか? それは「現在の状況に対して...」だ。つまり「過去には〇〇だったが、今それがどうなっているかは分かりませんよ...」ということなのだ。The earth was round.「地球は丸かった」は確かに事実だ。過去にも地球は丸かった。それ自体どうこう言われる筋合いのものではない。しかしそれが実に奇妙に聞こえる。何故か? 「アオリスト」の定義に従えば、「地球は過去に丸かった。しかし今は三角かも知れないよ」というニュアンスになってしまう。英語では「過去形」をpastと言う。これでは単にpassed「過ぎ去った」の意味しか持たない。これでは正確な意味は伝わらない。次の文はもっと重要で、実際の入試にも「正誤問題」として出題される。
  • If I had been you, I would not have done such a thing.(×)...①
    「もし私があなただったら、そんなことはしなかっただろう」

    ⇒If I were you, I would not have done such a thing.(〇)...②
幽体離脱 一見①の方が正しく思える。確かに「仮定法過去完了」の公式通りだ。しかし正解は②である。何故か? 「アオリスト」の意味を知った受験生諸君ならもうおわかりだろう。If I had been you「もし(あの時)私があなただったら...」ということは、裏を返せば「私は(あの時)あなたではなかった」となり、「(でも今は)私はあなたかも知れないよ」となる。幽体離脱(乗り移られると食べ物の好みが変わるらしい。恐ろしー!!)ならいざ知らず、こんなことはありえない。過去であろうと現在であろうと、「私はあなたではない」のは言わば「不変の真理」であり、従ってIf I had been youは「非文」となるのだ。

また①「命令法現在」と②「アオリスト命令法」の違いについても昨年のJUKEN・12月号に既に書いた。直説法以外の「法」は「time」とは無関係で「aspect(相)の違い」を表し、①は「(常に)~するようにせよ」で②は「(一度だけ)~せよ」の意味だ...と。どうしてこんな区別になるのか?「アオリスト」は「今現在どうなっているのかはどうでもいい」のだ。故に「アオリスト命令法」は「一度だけ~すれば、あとはどうでもいいよ」の意味になるわけである。

因みに「アオリスト」だけどうして「アオリスト」という呼称のままなのか? 「現在」「未完了過去(過去進行形)」「未来」「完了(現在完了)」「過去完了」と、ギリシャ語の他の時制はすべて英語に継承されているのに...だ。これはラテン語に原因がある。実はラテン語には「過去形」がない。代わりに「完了」という時制を用いた。これは①「過去」と②「現在完了」の合わさったものだ。その時その時でどちらなのかを区別した。従ってギリシャ語文法を輸入する際、「アオリスト」の呼称を輸入することがなく、ラテン語文法を継承した英文法にも伝わることはなかったのだ。「アオリスト」とギリシャ語のまま輸入することになった所以(ゆえん)である。最後に中2で誰でも学習するセンテンスを2つ書くので比べてほしい。諸君らは既に中2で「アオリスト」の意味を学んでいたのだ。
  1. He lost his wallet.
    「彼は財布を失くした」(過去:その後見つかったかも...)
  2. He has lost his wallet.
    「彼は財布を失くしてしまった」 (現在完了:見つかっていない)
最後に「仮定法は時制の一致の例外」という規則にも触れておこう。「時制の一致」とは簡単に言えば、「事件Aより事件Bの方が先に起こった場合、Aを過去に、Bを過去完了にせよ」というものだ。「出来事の前後関係をはっきりさせよ」ということである。至極当然の理屈である。しかし「仮定法」は「実際には起こっていない出来事」なのだから「前後関係」も何もない。故に「時制の一致」などさせてはならないのだ。


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