茗渓予備校通信KIRI
2010年9月号
ゼミの窓
2年ほどまえに『輿論と世論 日本的民意の系譜学』(佐藤卓己著 新潮選書)という本が出版されました。最近、朝日新聞でこの本の事が大きく取り上げられ、当時の事が改めて思い出されました。
著者によると、輿論(よろん、public opinion)とは、理性的討議による合意、真偽をめぐる関心で、世論(せろん、popular sentiment)とは、情緒的参加による共感、美醜をめぐる私的心情だと定義しています。朝日新聞がこの本をクローズアップしたのには、昨今の世論調査による政治への影響力や民主党の代表選などが引き金になったのではとひそかに思っています。国民が情に流されるのではなく、日本の国のかたちをどのように形成していくのか、理に訴えた議論を期待してのことでしょう。
唐突に、こんなひち面倒くさいはなしをもちだしたのは、じつはひとりの受験生から「最近、英語の勉強の仕方が分からなくなった」と相談を持ちかけられたことにあります。英語の実力は相当に高い生徒ですが、受験生心理で、受験が近くなると、他の生徒の事が気にかかるし、志望校のことで悩んだりもします。勉強に打ち込むよりは、それ以外のことが気になって仕方がない。
こんな心理状況が世論の心理に似ていると思います。いままで一歩一歩割合順調に実力を上げてきても迷いは出てきます。輿論ではないが、折節話してきた学習のコツを自信をもって実行してほしい。一時の情緒的不安に駆られるのではなく、理にかなった自前の学習法に自信を持ってほしい。そんなことを考えました。