茗渓予備校通信KIRI

2012年8月号

ゼミの窓

前回、いい本を読むことが思考力を鍛え、合わせて優れた日本語教育になると書きましたら、どんな本を読んだいいのかと生徒に尋ねられました。

いろいろな本をあげることもできますが、ここでは参考までにわたしの若き日の体験を話しておきます。

中学生のころ読んだ本で今でもあざやかに記憶に残っているのは、吉野源三郎『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)と堀辰夫の『風立ちぬ』です。このころ中学の国語教師から相当な影響を受けています。高校生に入ると、2年3年のころロシア文学に異常な興味をもち、トルストイ、ドフトエフスキー、ゴーゴリなど数多くの作家の本を読み漁ったものです。ゴンチャロフの『オブローモフ』なんていう、いまではほとんど問題にもされない作家の作品にも魅了されました。トルストイの『戦争と平和』はたしか河出書房の3巻本を数日で読み終えた記憶があります。オードリー・ヘップバーン演ずるナターシャの姿がいまでもよみがえってきます。

今から半世紀以上もまえの読書体験です。大切なことは、「入れ込む」好奇心と熱い心にあるかもしれません。言葉の大海原に放り込まれているうちに、自然に「ことば」の運び(論理)やあや(感性)に鍛えられていったように思います。

大学に入るとすぐに、とにかく400字詰め原稿用紙で500枚から600枚ぐらい書いてみろという教育を受けました。読むばかりでなく書くことで「考える力」をつけていった。読むことと書くことが相互に絡み合いながら思考力は鍛えられていきます。