茗渓予備校通信KIRI
2013年8月号
非凡なる凡人
7月もいろいろな人たちとの出会いがあった。
一人は、『副校長からみた都立高校改革』(学事出版)の著者である大河内保雪さん。長年、教育現場や教育行政 (都教委)にたずさわり、退職後は世田谷ボランティア協会評議員として活躍されている。いまでも地域の中学生に、推薦入試の手ほどきを無料で行っておられる。都教委にはうるさ型で鳴らしているようだが、学校経営へのマネジメントシステム導入に関し、P(計画)→D(実行)→C(反省)→A(評価)というサイクルを、教育現場の分析を出発点にC→A→P→Dと読みかえる現場重視の立場を主張している。漱石流にいえば内発的な改革である。日本の教育行政について海外の大学へ論文を発表したおりに、東京の教育委員会について少し研究したことがあるが、その視点には教えられることが多い。それにしても、自分の進んできた専門分野に軸足をとり、定年後もそのエネルギーを社会に還元する行動力には敬意を表したい。
もう一人は、今年度の読売教育賞優秀賞に選ばれた佐藤毅さん(トキワ松学園中高)。知人は塾回りの営業の先生と思っていたと言っていた。今回は、進路研究会の主催で、「臓器移植について考え、生きる力を培うための“いのちの授業”」という講演=授業を90分にわたり聞かせていただいた。佐藤さんは、『死』という誰もが避けて通ることのできない現実を、若いうちに考えることは後の人生を豊かにし、充実させるうえで不可欠だ、と報告する。いまの自分があるのは、小学校の時の恩師の教えに負うところが大きいという。与えられた職場で、ひとつ一つの職務をこなし、自分のこだわりをかたくなに追い求める姿勢に感銘を受けた。キャリア教育は、小学生も視野にいれた奥行きの深いものにする必要があるかもしれない。
もう一人は、フランスはストラスブール在住の小島剛一さん。昨年ほぼ半世紀ぶりに再会した大学時代の同級生だが、今回はラズ語刊行に向けた講演のために来日し、そのあと無類に世界歩きの好きな彼(人類学者でもある)は、今度はどこを旅するのか聞き忘れた。なぜラズ語を研究しているのか、学部時代の留学の話も含め初めて聞く話も多かった。ラズ語(トルコ北東端とグルジア南西端に主要語域がある)は絶滅の危機にあり、しかもラズ語を使うことを圧迫されている言語という。現地調査を何度も繰り返し、亡命しているラズ語話者との交わりのなかで、外国人である彼しかこの言語の保存ができないという思いで刊行を企画している。出来上がったら各部落のリーダーたちにまず届けるという。
いずれも、与えらた環境の中で自分を生かし、その時々を選択し、人生を織りなしていく姿には教えられることが多い。