茗渓予備校通信KIRI

2014年11月号

偏差値のはなし

受験と偏差値は切り離せない仲にある。それにしても偏差値教育は悪役を演じてきた。鳩山邦夫文部大臣の時代、公立中学での偏差値の使用が禁止されたことがある。しかし、受験の現場にいる人でも意外に偏差値の活用の仕方やその実態を知らない人が多い。

いわゆる学力偏差値は、(個の得点−母集団の平均値)÷標準偏差×10+50で算出される。ひらたく言えば、『偏差値』とはある模試(ここでは大手予備校の偏差値を例にとる)で、平均から各受験がどのくらい離れているかを示す値で、データの分布が正規分布(成績の山がひとつ)に従っていれば、「偏差値60」を(いつも)とれる生徒は、その学力が母集団(受験者全員)全体の上位約16%の位置にあるということである。 K予備校は、各大学が受験科目を発表したあとの数回の模試の偏差値の平均を受験者の偏差値(実力)とし、2.5ピッチ(Y予備校は1ピッチ)で表にプロットし、その合格可能性を以下のように評価する。

A判定=80%、B判定=65%、C判定=50%、D判定=35%、E判定=20%

日本の偏差値の親といわれる桑田昭三氏(中央公論の戦後日本を作った100人のなかの一人)は、理論的には3程度の誤差が生じると指摘しているので、この2.5のピッチは経験的に適切だったことになる。因みに桑田氏は、都内の高校入試の模擬テスト業者の進学研究会の顧問として自らの理論を実践的に検証していた。都内の各中学のほとんどがこの偏差値をもとに進路指導をしていたことが、上述した当時の文部省の癇にさわったのであろう。

入試の時期が終わると、各教科・科目ごとにセンター試験の分析を行い、主要大学の解答速報を作製し、その後、その年の入試問題分析会議を開き、良問・悪問の判定を含め教科科目ごとの冊子にまとめる。その資料に基づき、模試プロジェクトによるフレーム作りが始まり、担当講師により作成された問題(案)をひとつ一つ検討していく。こうした模試を現役生や既卒生が受験しているわけだ。わたしは、自分のゼミの中で時折り、KやSの模試を教材に取り込んで指導しているが、模試作成者の苦労が察しられる。

桑田氏は「厳密には(偏差値の)揺れ幅は各人各様です。本番でのテストで取る成績の範囲と確率は予言できますが、私でも試験当日、実際に取れる成績はどう知恵を絞っても予測することはできません。」と述べている。この闇の部分を「テストの神様の裁量分」と呼んでいる。さらに付け加えれば、たとえE判定であっても、いまの時期、志望校の過去問を徹底して研究し、弱点を補強しながら入試問題に強くなれば、かなり合格可能性を高めることは可能だ。この部分を「ラストスパートの伸び代分」とでも呼びたい。がんばれ茗渓の受験生。