茗渓予備校通信KIRI
2014年2月号
反転指導という考え方
反転授業という指導法がいま、世界でも日本でも注目を集めている。英語では、backwards classroom とか、reverse instruction とかいった表現が使われている。
これは、生徒たちが新たな学習内容を通常は自宅で予習し(ビデオ授業やネット配信などで)、教室では導入部の一斉の説明はおこなわないで、教師が生徒一人ひとりに合わせたかたちで学習指導を行うものだ。生徒は先生のもとで、個別に反復練習をおこなったり基本問題・応用問題の演習をおこなう。いままでの「教わる」授業から「みずから学ぶ」学習への大転換である。
ここまで書いてきて、これはいま茗渓予備校で実際におこなってきている「教科コーチング」そのものではないかと、いささか驚きを禁じえない。「気づきの学習」と言い換えてもいい。先日、研修に入っている先生と一緒に指導に入ったあと、ある高校生に「どうだった」と聞いたところ、「先生は私が答えるまで待ってくれるが、○○先生はすぐに説明してしまう」と指摘していた。生徒に一瞬でもいいから考えさせるゆとりを与える、この間がコーチングのひとつの秘訣だなと納得した。
ある先生は、「問題を各自に咀嚼、実践させることが重要。とくに演習が不可欠な数学や英文読解・英作文などで反転指導は有望だ」と指摘している。授業を演習の場=ゼミととらえる。
物理と数学のオンライン予備校を主宰する田原真人さんはフェイスブックで「反転授業の研究」を始めている。全国の教師や研究者が熱心に投稿している。民間校長の草分け的存在である元杉並区和田中学校長の藤原和博さんは、塾や学校で教えている腕のいい教師が動画をサイトに提供し学校に無料で提供するシステムを来年の春からスタートさせようとしている。
私はこれで10年以上、茗渓予備校で「新しい学びのかたち」を模索し実践してきた。一斉授業からの転換、自ら学び鍛錬するまなび、生徒との対話(ダイアログ)、好奇心の喚起、などなど、いろいろな思いが錯綜する。「反転授業」はマスを重視する公教育へのアンチ=反提言であるだけにビデオやネット配信が前提となっているが、私教育である塾や予備校は小集団の学習指導が本来の姿であり、特別ネット配信がなくても教科書による予習は可能である。
これもある生徒の話し。大手予備校のある先生が、「ぼくでなくてもいい。これぞという先生がいたら、その先生の言うことを信じ、1年間その指示通り勉強しなさい」と言ったという。教える側と学ぶ側の信頼関係が学習を支える真理をいっているのだろう。しかも期限付きであるのがいい。生徒はどんどん成長し変化するものである。