茗渓予備校通信KIRI
2015年11月号
センター試験改変の行方—何が目的か、混迷する新テスト
今日11月4日の朝日新聞をみたら、「大学入試改革、対応競う受験業界、中1向け模試も開発」という記事が目にとまった。3大予備校などが2020年度とされる新テストへ向けて、その対応に着々と手を打っているというわけだ。
実は、「高大接続システム改革会議」の「中間まとめ」(素案)を見てみると、次のように提案されている。(そのⅡの(2)段階を踏まえた着実な実施の項目)−平成36年度実施分から次期学習指導要領に基づくテストに移行することとし、平成32年度から35年度にかけては、36年度以降に向けた課題を解決しつつ現行学習指導要領のもとでテストを実施する。
簡単に言ってしまえば、当初の2020年度実施が4年ほど先送りされたということだ。学研アソシエのO氏から、大学入試センター名誉教授の新井克弘氏とのインター記事を送っていただいた。新井教授は東工大の出身で2009年から大学入試センターに転出し、センター試験の統括官として長年陣頭指揮された高等教育研究・教育計画論の専門家である。その記事の中から実務者・研究者ならではの発言を少しだけ概括させていただく。
新テストのサンプル問題の下地ぐらいは出来ているだろうが、とても公表できる段階ではない。
- 誰を対象に何を改革するのか、いまもってはっきりしない。
- 奇妙なのは、「確かな学力」とは小学校から高校までの教育指針なのに、なぜ学力の三要素(①知識・技能、②思考力・判断力・表現力、③主体性・多様性・協働性)が大学の入学者選抜まで浸食してきたのか。※①は「基礎学力試験」に、②は「学力評価テスト」に、③は各大学の「個別選抜」に対応している。
- 出題科目を変えるのはたいへんな作業である。時間をかけて高校や大学と調整する協議が必要。
- 入試改革を大学評価に組み入れるとか、国立大の運営費交付金にその成果を反映させるという文科省の(※強圧的)姿勢。
- 高校の後半2年間に6回実施する全国規模の共通試験を行って、果たして高校教育そのものが成立するのか。
- 現行の大学入試センターでは大学教員を500人動員して朝から晩まで年間50日かけて問題を作成してきた。問題数が30科目でトータル1800題ほどだ。「中間まとめ」のいう項目反応理論(IRT)では、2万〜3万題必要になる。
- IRTでは、試験問題は非公開。受験生は試験問題を持ち帰って自己採点することはできない。
- 現センター試験は学力中位層・下位層の学力向上を視野に入れていたが、新テストでは、ごく一部のトップ進学校とそれ以外の高校の格差がますます広がることが予測される。などなどますます混迷を深める新テストの行方だ。