茗渓予備校通信KIRI
2015年6月号
『大学受験セミナー』で思ったこと
今年も、恒例となっている前期の大学受験セミナーが、5月24日に調布校で5月31日には吉祥寺校で開催されました。両会場とも30名前後の参加をいただき、盛況のうちに終了いたしました。参加された生徒たち、また保護者の方々に心から感謝いたします。
今年は、第2部で中村正隆先生(東大教養学部準教授、離散数学)をお迎えし、大学側から見た新入生について率直なご意見を聞かせていただきました。これで、送り手としての高校・予備校、受け手としての大学、そして受験生・保護者と受験当事者すべてが出そろったセミナーとなりました。
濱田純一前東大総長(法学者)は、2014年度の学部入学式の式辞で、自己投企(サルトルの用語)を引き合いにだし、未来の可能性へ向けて思い切りもがいてみる必要性を強調し、タフでグローバルな学生を育てることを目標として掲げました。そして、五神真現総長(物理学者)は画一化を廃し多様性を尊重する姿勢を打ち出しています。中村先生によると、いまの大学生はひよわで内向き志向が強く多様性に欠けており、とかく中高一貫の私立受験校の出身者が多すぎること(つまり画一化か)を嘆いておられました。
しかし、これはすこし違うのではないでしょうか。大むかし、成田空港の開設が遅れホテルが格安で借りられたので、医学部志望の受験生専用の夏期セミナーを行ったことがあります。そのとき、チューターとして東大の医学生10名ほどに手伝ってもらいましたが、彼らの出身校は、灘高・ラサール・開成・学大付属・筑波大駒場など名だたる中高一貫の受験校で、一人だけ都立戸山高校出身の生徒がいたことを今でもよく覚えています。かれは脳外科医を希望していました。
受験生だけがひ弱になっているのではなく、日本社会全体がいささか脆弱になっている感じがします。この点を除き、中村先生の子供への接し方には全面的に同感です。母親はまず何より日常生活の言葉遣いに最も気をつけよ。父親は最終ラインにいるゴールキーパーに徹すること。親の果たせなかった夢を子供に代行させるな。「馬を河に連れて行くことは出来ても水を飲ませることはできない」や、「子供のピアノ教師を頼まれて、ドアを開けて迎え入れてくれたのはホロヴィッツだった」というエピソードなど、教育の要諦をついた話には強く感銘を受けました。
この記事を書くにあたり、東大総長の学部と大学院での入学式の式辞をネットで精読してみました。ぜひ、本紙の読者諸氏にも読んでいただきたい。昨年10月に京都大学の総長になった山極壽一(霊長類研究者)の式辞は、エリオットの『荒地』の冒頭の英詩から始まり、谷川俊太郎の詩「朝」で終わる。ぜひ、一読されたい。