茗渓予備校通信KIRI
10月26日の朝日新聞朝刊1面に「記述式実現難しい58%」という記事が踊っていた。
朝日新聞と河合塾の共同調査「ひらく日本の大学」で今年6月から8月にかけて、全国の国公私立大746校を対象に実施、88%の654校が回答。この中で、記述式導入の実現の可能性を「高い」「可能」「厳しい」「かなり厳しい」の4段階で質問したところ「厳しい」「かなり厳しい」は計58%、「高い」「可能」は合わせて37%。一方で、記述の必要性は「大いに必要」「必要」が計59%、「あまり必要ではない」「まったく必要ない」は計38%で、見事なまでに対照的な数字だ。
大学側は教育上学問上、記述の重要性は認めるが、①50万人の受験者の採点が短期間に可能かどうか大いに疑問であるし、②果たして少ない文字数で本物の「文章の解釈」や「文章による表現」のプロセスを評価できるのか疑っているのではないか。(主に、今年の8月末に公表された文科省の中間報告をもとに考察した。)
①の問題点(採点方法)効率的に採点を行うために、現在の技術水準で実現可能な方法により、答案の読み取り、文字認識によるデータ化、キーワードや文章構造による分類(クラスタリング)を行うことにして、民間事業者の知見も踏まえながら検討(上述した中間報告より)。人工知能が人知を凌駕するという2045年ならともかく、2018年に実施予定(高3生対象で10万人規模)のプレテストに向けて、どの程度機械化自動採点が可能なのか。現在のセンター試験でも6教科30科目の作成に500名ほどの大学教員を動員し、年間45日も出張し頑張らせている。もし、今の部署が採点を担当することになったら過労でみんな倒れてしまうだろう。ちなみに、センターだけで採点すると800人で20日~60日かかるという。国大協は受験生が出願した大学が採点を担う方向で検討を開始しているという。フランスのバカロレアのように受験生の出身高校で採点するならともかく、日本私立大学団体連合会は私大による記述採点は不可能、大学入試センターが責任をもってやるべきと先手を打ってきた(2016.10.6)。
②の問題点(この程度の記述で本当に思考力表現力が測れるのか。)上述の共同調査の返答で、甲南大(神戸市)は「短文記述の場合、要領よく書くことが要求され、表現力や思考力は二の次になる。本当に思考力を評価するのなら少なくとも400字は必要であろう」と言い、早稲田は「思考力が著しく劣る者を排除することしかできないのでは」と皮肉っぽく語る。この欄の8月号で報告したように、東大は現行のセンター試験で幅広く受験生の学力を判定、二次試験で内容を絞った「深い記述式」を出題できているとしている。
入試改革の推進母体の「高大接続システム改革会議」は、英語に関しては民間の資格・検定試験の活用に傾いている様子だ。英検側の4項目の採点基準を参考に、事前に担当している生徒に2度ほど書き方の指導をおこなってみたが、中3高1の生徒の中には驚くほど高得点をとったものもいた。予備校などの対策が先行し、期待される思考力などの評価には結びつかない懸念がある。試験できない領域、また道徳などのように試験してはいけない領域もあると思う。