茗渓予備校通信KIRI
2016年 5月号
高大一体改革の背景
前回は3月末に発表された「高大接続システム改革会議」(最終報告)のなかのⅢ-3-(3)に出てくる「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)に絞って論点整理をしました。
今回は、高大一体改革(①大学改革=学部再編成、②入試改革=新テスト導入、③高校の教育改革=アクティブ・ラーニング)を現代社会の要請という側面から見てみましょう。
「最終報告」の冒頭に、検討の背景と狙いが書かれています。日本はいま、国際的にはグローバル化・多極化の進展、産業構造や就業構造の転換、国内的には少子化・労働生産性の低迷など多難な時代に直面、先行き不透明な社会のなかで、主体的に学び問題解決型の人材を養成することが必要となっている。ちょうど中曽根内閣の時代の臨教審と同じように、「幕末から明治にかけての教育の改革に匹敵する大きな改革」が今後の日本の命運を左右する、とまで言い切っています。
学研アソシエの大堀さんは全国各地の高校生や先生を対象に年間200回以上の講演をこなしておられるが、「グローバル社会とはどんな社会か?」と生徒たちに聞いてみると、ほとんどが「異なるバックグラウンドを持った人々との共生社会」とか「世界の人々が対等に扱われる社会」とかいったプラス面の回答だという。ところが大学の小論文は、グローバル社会⇒競争社会⇒格差社会といった構図に関するものがほとんどです。諸外国でもグローバル社会の負の側面の指摘が多いと聞きます。
先日NHKの番組を見ていたら、ディスラプトという言葉が出てきました。英語でdisruptというのは、崩壊させる、分裂させる、混乱させるといった意味で、最近のビジネス社会では、変革(生き残り)のための破壊という意味合いが含まれています。今回の高大一体改革は文科省というより財務省の意向をくんだものといいます。教育基盤のディスラプトはいただけません。
「2045年問題」という言葉をご存知ですか。2045年にコンピュータの性能が人間の脳を超えるという予測です。この予測はコンピュータ・チップの性能が1.5年毎に2倍になると予測した「ムーアの法則」に基づくものです。いずれ多くの仕事はコンピュタに置き換わり、失業が激増するかもしれません。
こうした時代の変遷の中で教育はどのように適応しなければならないかという側面から、この「最終報告」を読む必要があります。ただし、過去の教育改革は掛け声だけに終わるものが多く、理念と現実をあたかも振り子のように右に左に行ったり来たりしてきたことも事実です。成果を事後的にしっかり記録し評価し記憶することが重要です。