茗渓予備校通信KIRI

2017年 1月号

新共通テスト記述問題の落としどころ

明けましておめでとうございます。受験生のみなさん、受験までもう少しです。第一志望合格へ向けて、あとは一直線に駆け抜けるだけです。茗渓スタッフ全員がみなさんの頑張りを支えます。

2020年から導入される現行のセンター試験に代わる新共通テストに、文系・理系を問わず国立大の全受験生に対し、国語を基本に80字以内の短文形式(採点はセンターが業者に委託)と、より字数の多い形式(各大学が採点)の2種類の記述問題を出題する方針案を国大協入試委員会がまとめた。2次試験では理科や地理歴史などでも各大学で記述式の出題を考える。こんなところが落としどころか。

文科省は、国立大の2次試験で、国語などで記述式を導入しているのは募集定員の約4割にとどまっており、広く記述式を出題して思考力・判断力・表現力をつけていくことを狙っているが、国大協会長校である東北大の倉元直樹教授と宮本友弘準教授(教育測定学)が4つの大学院大学を除く全国82の国立大学の前期・後期試験で出題された全教科の問題を枝問まで分析した結果、客観的に採点できる○×式や選択式ではなく、採点に人の判断が必要な短答式や数式、英作文などを「記述式」に含めると、全2万4066問中、2万1065問(88%)が記述式に該当するという。

倉元教授(高度教養教育・学生支援機構高等教育開発部門入試開発室)は、個別大学と日本の教育全体への影響を考えた大学入試を設計できる人材の必要性を説き、学力を無視したAO入試や推薦のような学力を度外視した入試の拡大が、日本の教育に悪影響を与えているのではないかと警鐘をならしていた(2009年河合塾ガイダンスより)。例えば、現行のセンター試験は、高校教育における良き教材群として機能し、私なども高校1年生あたりから積極的に活用してきた。そして、倉元教授も指摘しているように、大学入試センター試験と国立大学の個別試験は問題群の性格が違い、個別試験の場合は受験生の学力層が狭いのだから、狭いながらも学力差が出るような内容や難易度になるのは当然である。入試問題は「測定しようとしている能力や学力を適切に反映した内容」であると同時に、「適切な難易度や学力の識別性能」(日本テスト学会)を備えている必要がある。その意味で、東大の南風原副学長の次のような発言は傾聴に値する。「センター試験は、幅広く多くの内容に関して効率的に試験できる良さがある。東大は、選択式のセンター試験を一次試験にしているから安心して二次試験で内容を絞った‘深い記述式’を出題できている。」東大の個別入試は受験生との対話であるとも述べている。

それに対し、文科省の角田喜彦大学振興課長は「今回のデータはどんな質の問題かまでは分析されていない」と指摘しているが、ならば新共通テストの80字以内の短問形式がその質を保証するのか。質は新共通テストや各大学の個別入試の出題の質に関わるものだと思う。

現行のセンター試験はもともと私立国立を含めた全国の大学がこぞって共同で実施する全国共通テストとして発足したものだという。ならば、私立国立を問わず各大学が受験生に対し、どんな資質の受験生に来てもらいたいのか、主体的に鮮明にメッセージを発してもらいたいものだ。