茗渓予備校通信KIRI
2017年 6月号
大学入試共通テスト(仮称)のその後―検討・準備グループの会議では問題噴出
5月14日と21日に行われた『春の大学受験セミナー』には50名以上の参加をいただき、ありがとうございました。会場がそろそろ手狭になってきました。
その折ご報告させていただいた、20年度から始まる新テスト=大学入試共通テストは最終的な意見調整の段階に入り、6月末には文科省から最終実施案が出されます。以下、直前の各部局からの懸念の数々を簡単に報告させていただきます。会議は公開のもとで行われ、私も属している「安田教育研究所」副代表の平松氏が傍聴した内容を以下簡潔にご報告しておきます。
★文部科学省は16日、「大学入学共通テスト」の実施方針案と、国語と数学の記述式問題例を公表した。英語は共通試験を廃止し民間の検定・資格試験に移行するが、A案(文科省が認定する民間試験に20年度から全面移行)とB案(23年度までは共通テストと民間試験を併用)の2案が示された。民間試験は高3の4~12月に2回まで受験できること、成績は国際標準に基づき6段階別に示す。
★記述式問題例は国語、数学各3問が示された。うち国語の一つは、景観保全に関する広報文を題材に、意見を最大120字で書かせる問題で、採点基準として解答類型に示された(正答の条件)をみると、①…文の数、②…字数、③と④…引用すべき問題文中の部分、⑤…問題文を用いた記述とあり、その一つでも欠ければ誤答となる。問題の文章が平易なのに、新聞などで明らかにされた、学生によるテストの得点結果が低いのは、国語数学ともに完全解答だけを正答としたためと考えられる。こうした縛りのおかげで、記述式と言っても、あてはまる内容を本文中から探して答える短答式や、条件を満たす文の選択肢を答える選択式とあまり変わらない印象を受ける。条件を満たす表現を解答の文章に正確に盛り付ける「文章構成力」を評価する問題と見れば納得できないものではないが、記述式問題に求められた、自分の考えを形成する「思考力」「表現力」とは異質なものと思われる。
★公表から6日後、文科省で開かれた新テストの「検討・準備グループ」を傍聴した。出席者は、座長の独立行政法人大学改革支援・学位授与機構理事の岡本和夫氏、ほかに早大入試開発オフィス長の沖清豪氏(イギリスの受験制度に詳しい)、工学院大附属中・高校長の平方邦行氏、都立西高校長の宮本久也氏、上智大の吉田研作氏等、文科省と大学入試センターの担当者も顔を揃えた。英語のA案(20年度実施)、B案(23年度から)については、用途の異なる民間試験をどう比較するか。国際基準に置き換えるのは容易ではない。欧州では甘い評価を売りにシェアを伸ばす試験も登場している。同じ外国語である仏語、独語などの準備が不十分。学習指導要領との調整が困難などの消極論が先行したが、最後に「これまで4,5年を費やし、更に実施まで6年以上かかるのではグローバル化に間に合わない。急ぐべきだ」との反対意見が出て、議論は平行線をたどった。段階別評価では合格者数の管理が難しい。結果通知が1週間遅くなるとセンター利用の私大の入試日程は混乱するなど、大学側から問題が噴出したが、議論はほぼ行政側のペースで進み、あきらめムードも感じられた。
※なお、今春の大学入試の特徴と今後の見通しについては、「新テスト」の動きも合わせ次号で扱います。