茗渓予備校通信KIRI
2018年 3月号
大学入学者選抜における英語試験のあり方をめぐって
先月2月10日に表題のようなテーマのシンポジウム(高大接続研究開発センター主催)が東京大学で開かれた。いま大きな注目を集めている大学入学者選抜改革における英語試験のあり方について理解を深め、各大学における今後の方向性の検討に役立てる目的で、関係各方面を代表する報告者が集まって討論した。申し込み2日目で定員280名が満席となり、急遽別室にモニターを用意し400名を収容するという盛況であった。高校や大学、民間試験の関係者らが目立った。
登壇したのは、①文科省の山田泰造大学入試室長、②片峰茂前国大協入試委員長、③込山智之GTEC開発部長(ベネッセ)、④羽藤由美京都工芸繊維大学教授(スピーキングテストの開発・運営に携わる)、⑤阿部公彦東大准教授(今回の文科省の英語改革は愚策と酷評)、⑥宮本久也(全国高等学校長協会長・都立西高校長)の6人。
センター長の南風原先生の人選の腕は見事だった。推進派(①から③ )、懐疑派(④から⑥ )まで、それぞれの立場からいろいろな資料を駆使して討論が行われた。詳細は茗渓予備校のHPの「教育ニュース」に掲載しておいた。
新聞各紙もこぞって報道していたが、ここではあまり報道されていない点にも触れながら論点を整理しておく。
①の立場。英語の4技能を直接評価しないと英語教育を変えられないという立場から民間試験の活用を決定した。数十万人が一斉にスピーキングの試験を受けることが難しいので、一定の評価が定着している資格・検定試験を活用。この3月末までに現在エントリーしている業者から認定試験として選定する。②の立場。基本的には4技能評価の必要性を主張し、将来的には国が民間の認定テストに代替えできる体制をとりたい。国大協に所属する各大学に対するアンケート調査で、今回の英語改革に(a)賛同、概ね賛同または意見なしが67%、(b)その他33%という結果が出たという。奇妙なことに、アンケートに(c)反対という選択肢がなかったという。多くの大学は英語を担当する教官の意見を聞くことなく、大学幹部が急いで回答したということらしい。司会の南風原教授(テスト理論の権威)は、最近は敵は文科省ではなく国大協だと、いささかユーモラスに言い切った。③の立場。いうまでもなく、GTECを実施するベネッセの4技能評価の実績を誇示。現在の試験や採点のあり方を語っていた。
▼ここから、懐疑派の報告が続く。④の立場。京都工繊で実践してきたスピーキング試験のデータを駆使して、いかに人手とコストがかかるかを報告した。やり方次第では大きな正の波及効果を期待できるが、目的が異なる民間試験をCEFRの基準に無理やり当てはめるのは拙速であり無謀だ。最大の難点は、公正性と公平性を保証できるかどうかだ。おそらくトラブルは不可避だろう。⑤の立場。ひつじ書房から『史上最悪の英語政策-ウソだらけの「4技能」看板』という著作を出している。ただでさえ英語の授業時間が少ないのに「スピーキング」に時間を取られたら、読解など基礎的な力をつける時間が少なくなり、英語力そのものが落ちるのでは。氏の「リスニング」が一番大事だという主張には、私も賛同する。⑥の立場。高校の英語授業が民間試験の対策を重視することになる恐れがある。英語全体の配点のなかで認定試験が占める割合をできるだけ少なくしてほしい。
▼最近、国大協はガイドラインとして認定試験は1割以内の得点配分にすることを公表した。南風原先生は東大に適用したら、一次20%の200/900の10%で、0.4%の重みと試算されている。詳しくは茗渓のHPの「教育ニュース」をどうぞ。