茗渓予備校通信KIRI

2021年 10月号

大学入試の英語はどこに向かうのか(日本テスト学会第19回大会公開シンポジウム[9月25日開催]より)

今回はズームを使っての2時間半に及ぶ会議となった。冒頭、今年の4月から日本テスト学会の理事長を務める南風原朝和氏(東京大学名誉教授/広尾学園中学校・高等学校校長)からこの企画の趣旨説明があり、その中で、発音・アクセントや語彙・文法・語法の単問形式の問題が排除されたり、各大学の積極的な事例に補助金を出したり、民間試験を導入したら評価するという「インセンティブ」を国が与えるといった点に危惧をにじませていた。まず、大学入試センター試験・研究統括官である大津起夫氏から、今年1月に実施した大学入学共通テストの英語リーディング、リスニング試験の結果を過去のセンター試験と比較した結果説明があった。同時に、共通テストにおける英語の出題方針やその結果についての分析結果が報告された。次に、「大学入試のあり方に関する検討会議」では、ただひとり英語および言語テストの専門家として参加した日本言語テスト学会会長の渡部良典氏(上智大学大学院言語科学研究科教授)は次の4つの論点と対策案を提起した。
  1. 実証研究は入試改革の効果は限定的だということを示している。
  2. 民間試験はそれぞれが特徴を備えたテストであり共通テストの代わりにはなりえない。⇒両者は棲み分けするのが妥当。到達度テストの基礎研究が必須。高校、大学それぞれの段階で充実した教育を行う。その上で証明書を発行する。
  3. 「4技能」は便宜的な分け方である。⇒読む、聞く、書く、話すはその先にある最も大切な目的を達成するための手段。4技能の統合が必要。
  4. 語学の授業に学際性を求める。
どれも示唆に富む指摘であり対策案である。

 お二人はともに日本テスト学会の会員でもある。この二人の発表を受けて、大学側からは阿部公彦氏(東京大学大学院人文社会系研究科教授)が、高校側からは松井孝志氏(都立高校、都内私立高校教諭などを歴任、専門の英語ライティング指導の観点から独自の問題意識をシンポジウムやSNSを通して発信してきた)が、それぞれ多岐にわたる観点から議論に参加した。学会のシンポジウムだけに、専門用語が多用され分かりづらい面も多く、ここでは次の2点についてのみ簡単に報告する。

発音やアクセント問題の廃止に発する諸問題及び4技能のとらえ方

令和元年6月7日に、大学入学共通テスト作成方針が公表された。事前に公表されたのは今回が初めてという。英語に関しては、以下のように決定された。

〇高等学校学習指導要領では、外国語の音声や語彙、表現、言語の働きなどの知識を、実際のコミュニケーションにおいて、目的や場面、状況などに応じて適切に活用できる技能を身に付けるようにすることを目標としていることを踏まえて、4技能のうち「読むこと」「聞くこと」の中でこれらの知識が活用できるかを評価する。したがって、発音、アクセント、語句整序などを単独で問う問題は作成しないことにする。

センター試験の時代から、問1の発音・アクセント問題はいろいろ課題が指摘されてきたが、議論がざわついてきたためか、「英語教育の観点から大学入学共通テストの導入を機に改善を図るものである」という理由で、令和元年11月15日に、問題作成の方針は変更しないと公表された。上記の「したがって」という部分は、どう見ても詭弁としかとらえようがない。4技能といいながら、「書く」「話す」部分の能力の評価はどこへいってしまったのか。英語の入試問題の立付けが民間試験導入前提で進められた路線が崩れてしまったことで、もう一度考え直す必要があったのではないか。センター試験の問1(発音・強勢)の問題の得点相関(ほかの問題の得点率との相関)は他の設問に比べて低めであった(大津)ということである。そもそもほかの設問と比べ、問1は異質な力を測定しているのであり、相関関係が薄いのは当然である。しかし、短母音、二重母音、長母音の違いなどを意識する英語学習は日本の生徒には必須なのではないか。日本語と西洋諸言語との差は音韻・形態・統語法全般にわたりきわめて大きい。なんだったらリスニング問題のなかに、問1の狙いと同種の問題を取り入れることも可能なのではないだろうか(阿部)。問2の語彙、文法・語法、語句整序などは得点相関が大きいことは体験的にも納得できる。これらは読解力を支える要素だからだ。

教育現場では4技能に分けて考える傾向が強いが、やはり統合して考える必要があるのではないか。強いて言えば、書き言葉の受容(receptive)面がリーディングであり、産出(productive)面がライティングあり、話し言葉の受容面がリスニングであり、その産出面がスピーキングと言える。わたしは、教室では折に触れ、外国語学習は4技能が統合されているものだと強調してきた。これという教科書を暗記するまで徹底して自分のものにしてしまうのが外国語学習の近道だと思う。

民間試験導入見送りについて

民間試験はそれぞれが特徴を備えたテストであり、共通テストの代わりにはなりえない。例えば、IELTSとTOEFLの相関は、ライティングで0.44、4技能全体で0.73という研究もある。渡部教授の言われるように、棲み分けるのが妥当だろう。