茗渓予備校通信KIRI
2021年 12月号
日本への留学生たちから見えてきたもの
今年もあと残すところ1か月となりました。受験勉強も最終盤に入ります。長引くコロナ禍にあって勉強に集中できないこともあるかと思いますが、ここは気を引き締めてゴールを突き抜けてください。茗渓予備校は皆さんの伴走者として、最後の最後まで受験勉強をサポートしていきます。
わたしの所属している「シニアZoom塾」の<若者に学ぶグローバル人生>で招待したアジアを中心とした日本への留学生の話をもとに、若者たちの日本留学への思いやひるがえって日本の教育事情などをあれこれ考えてきました。
左表を見ると、圧倒的にアジア地域の留学生が多く、それも中国が群を抜いていることに気づかされます。「シニア塾」のこの企画は2020年5月に始まっていますが、登場していただいたのは、順に、中国・ベトナム・ミャンマー・ネパール・ナイジェリア
・シエラレオネ・中国・ベトナム・セネガル・ベトナム・ベトナム・ベトナム・中国・タイ・中国・ラオスの留学生たち(元も含む)です。アフリカが3か国入っていますが、これは「あしなが育英会」の支援による留学生たちです。社会人口学者の是川夕氏(国立人口問題研究所国際関係部長)によれば、「コロナ禍の直前で毎年約17万人の技能実習生、約6万人のハイスキル層、約12万人の留学生など、年間約54万人の外国人が新たに来日している」と語っています。(朝日新聞、2021/11/26)いま世界で人の移動が最も活発なのはアジアであり、韓国などと比べると大卒以上の高学歴層が日本を選ぶ傾向が強いという。その理由は、「メンバーシップ制と言われる日本の雇用慣行です。多くの企業で新卒の一括採用をしているため、留学生として来日して日本の大学を卒業すれば、日本人と同じレールに乗ることができる。諸外国では就職に資格や実務経験が必要なのが当たり前なので、日本の仕組みは若い世代にとって魅力的です。」「(日本語学校の調査では)約25%は親が大卒以上の家庭から来た生徒であり、本人たちも約半数は卒業後、日本の大学に進学を希望していました。多くの留学生が日本人学生と同じ進路を目指しているのです。」
わたしたちが招いた(元)留学生たちは、どちらかと言えば国家などの支援を受けた優秀な生徒たちが多く、いずれは祖国へ戻って国のために働きたいと語っています。 しかし、IMFによる移民送り出し圧力に関する長期シミュレーションによれば、日本への移民流入は2050年ごろまで高止まりしていて、経済成長している国々からの移民は日本に来る傾向が強いといいます。是川氏によれば、この流れは人口減の日本がアジアの若者のハブになる好機になると指摘する。「成長するアジアと、各国の若者たちの躍進を考えると、アジアの一国家である日本は、その活力を享受できるポジションにあります。アジアの若者のハブになるチャンスがあるというのに、それに背を向けてしまったら大きな損失になるでしょう。」
わたしは、ときどき日本地図を中国大陸から眺めています。まさに大陸の東の端に位置し、アジアの国々から多様な人々が流れ着く位置にあります。日本は昔から多民族国家であったという研究者もいます。単一民族であるというのは、つい最近、明治政府の作った神話であったと思います。東京から交通の便など一番遠い位置にあるのが金沢(裏日本)あたりですが、逆に見れば大陸文化から一番遠くにあるのは東京(表日本)かもしれません。
日本経済はこの30年間、停滞したままです。ほんの一握りの人々の収入はけた外れに伸びているのに、中産階級の労働者の給与はほとんど増えていません。確かに、発展途上にあるアジアの安い労働力が先進国日本の中間層の所得の伸びをおさえている一つの要因ですが、こうした経済現象は世界的な傾向です。グローバルな世界にあって避けては通れません。国境にいくら壁を作っても、ナショナリズムに染まった教育をいくら施してもこの流れは止められません。
私的補習教育(塾・予備校)の国際比較(少し古いが2012年の調査)によれば、中国や韓国はもちろん、ベトナムで高校生の63.0%、ネパールで10年生の68.0%、そして台湾の7年生の72.9%など、多くの生徒が私的補習教育を受けているという報告があります。10年前の調査なので、今ではもっと多くの生徒がこうした教育を受けていると想定されます。1960年代後半に上京したわたしの世代の多くは、長男でもなければ田舎の美田を相続するわけにもいかず、大都市へ東京へと立身出世を願って大学を目指したものです。ちょうど高度経済成長期にあたります。その後、雨後のタケノコのように塾が増えてきました。こうした風潮が、いま多くのアジアの発展途上国などで起こっているのではないか。これから出会うであろう留学生の皆さんに、わたしの憶測をぜひぶつけてみたいと考えています。