茗渓予備校通信KIRI
2021年 5月号
「センター試験」をふり返る(前編)
この欄でもときどき触れたことがありますが、大学入試センターが『「センター試験」をふり返る』という冊子を完成させました。以下、2回にわたり、その概要を私見を交えながらご報告しておきます。
共通一次試験、センター試験を通し計42回(年)、国民的な事業である大規模試験の総括が何らなされずいまに至っている。そうした意味でこの冊子は画期的な出版と言える。
「はじめに」で大学入試センター理事長の山本氏は次のように書いている:
センター試験は50数万人の成績を短期間で大学に提供するために解答はマーク式であり、クイズのような細かな知識問題に偏っているとの誤った見方が大勢であった。決してそうではなく、試験後に実施される高校教員や教科教育の学会からの外部評価において、思考力・判断力・表現力を問うような、大学教育の基礎力がついているかを測る、適切な問題となっているとの高い評価を受けてきた。
「思考力・判断力・表現力」を問うようなものとは、高校教育・大学教育・大学入学試験の一体的改革を実現する今回の教育改革の肝になる概念である。導入が頓挫した記述式問題もこの流れの中で出てきた。山本理事長は、トップとして、大学入試の現状の中でセンター試験は適切な問題となっていると主張したかったのであろう。
第1部は「大学入試センターの実務」をセンターの実務担当経験のある中堅職員が中心となってまとめたものである。
第2部は、大学入試センターの元試験・研究統括官(現場のトップ)ほかいずれもセンターに在籍した研究者による論考で構成されている:
- 新井克弘(元統括官、センター客員教授) ボーダレス化する高大接続
- 大塚勇作(元統括官、京大名誉教授) センター試験問題の作成と課題
- 鈴木規夫(元研究開発部准教授) センター試験志願者の受験行動と学力特性
- 前川眞一(入試センター特任教授) 成績データから見たセンター試験
第1部の要点
センター試験は平成2年度から始まり、5教科7科目を一律に課す国公立大学の志願者を対象にした共通一次試験を改め、新たに私立大学にも対象を広げてきた。また、大学の特色に応じて教科・科目を選択できるアラカルト方式を導入した。1991年の大学設置基準の大綱化に端を発する教養部(入試業務を担ってきた)の解体や2003年の大学法人化などで、多くの国公立大学は自前の入試問題を作成する余力をそがれ、それと比例する形でセンター試験に依存する比重が強くなったといえる。また、私大側はセンター試験を手軽に利用することができるようになった。こうして、年を経るごとに、業務は肥大化(共通一次の5教科18科目から7教科30科目へ)し複雑になっていった。センター試験は、あたかも「センターが実施する試験」であるとの受け止めが一部にあるが、大学入試センター法第3条によれば「大学が共同して実施する」ことが旨とされている。試験場の設定や試験監督者等の選出はもちろんのこと、私大側から問題作成者の入試センターへの派遣がどの程度できているのか、知りたいところだ。
問題作成はセンター業務の中でももっとも重要であるが、約430人(令和元年度)の問題作成委員が年間40~50日間約2年間にわたり入試制限区域となっているエリアで問題作成に従事している。およそ半数が毎年入れ替わっている。前年度厳しく指導を受けた先輩委員は、今度は新入りの委員を、ときにはここぞとばかりいびりながら(笑)後輩の指導を行っているという。近年は、大学教員の本務校における業務量の増加もあって、委員への就任を断るケースも多いらしい。試験終了後には、約400ページにおよぶ「試験問題評価委員会報告書」がまとめられ、ホームページに掲載される。現在は、前年度分がアップされているが、本年度の第一回共通テスト分は掲載されていない。
センター試験の実施を貫く考え方は、(1)試験上のミス・トラブルを徹底的に最小化する、(2)公平公正に試験を実施する、(3)一人ひとりの志願者の事情を可能な限り考慮する、(4)試験問題の作成及び点検を厳格に行う、である。この精神は共通テストでも引き継がれていくであろう。
たとえば、マークシートは配布される前に、白紙答案の状態で一度読み取りを行う、 たとえ追試験の受験者が一人であっても、大人数の体制を整備して万全を期している、問題作成委員就任に当たっては、委員に就任していることを秘匿することや、大学受験期にかかる子供や兄弟姉妹がいないことが条件(これは担当する事務職員についても同様)としている、などなど。
次回は、第2部の4人の論考について考えてみたいと思います。