茗渓予備校通信KIRI
2021年 7月号
留学生への期待
Onlineシニア塾(コロナ禍で高齢者たちがZoomに集う)の中に<若者に学ぶグローバル人生>というイベントがあります。現在は22名ほどに少しずつ規模が膨らんでいます。月に1~2度ほど開いていますが、すでに中国、ベトナム、ミャンマー、ネパール、タイ、あるいはアフリカのセネガル、ナイジェリアなどの若者や、ヨーロッパで活躍する日本人などから話を聞いてきました。
先月、先々月と日本最大の入試である大学入学共通テストのことをこの欄で記事にしてきましたが、書きながらこうした留学生(外国からの留学生や日本から海外に飛び出す日本人も含め)たちのことが頭をかすめました。東大を例にとると、令和2年度で海外からの留学生が4259名で全生徒数の15%弱、修士博士課程に絞ると25%に上ります。国別にみると留学生総数の64%が中国人です。圧倒的な数です。
毎月、海外から日本に留学し、その後日本の企業や本国に戻ったりしている若者と話をするにつけ、人の動きはもはや世界規模で交錯していることに改めて思い知らされます。ミャンマーの若者たちとは複数回にわたり接触しましたが、軍政下の国情を彼らの視点から考えてみることができて、大手のメディアからはうかがい知れない側面が見えてきます。もはやグローバル化は否応なく身近なところで進行しています。 今年中に留学生の持つ可能性について、私なりに総括できればと考えています。
もう一つ、気がかりなのは、日本の研究レベルあるいは研究者の質の問題です。文科省の大学入試に関わる施策の原点にあるのは、国力としての知力科学力の底上げにあります。コロナ対策や日本学術会議の会員選出に関わる案件を見るにつけ、政府は本気で日本の科学立国の肝をとらえているのか疑問に思うことが多々あります。
大学入試のあり方に関する検討会議 提言(原案)
6月22日、6月30日に「あり方検討会議」の提言が文科省のHPに掲載された。今後の大学入試の骨組みに関する提言であり、その骨格を報告しておく。 提言によれば、今後、文部科学省において、大学入試センター案及び本検討会議提言を踏まえて、大学、高等学校関係者等との協議を行い、今年の夏に予告を通知する必要があるとしている。
この会議は、大学入試や高等教育政策、国数英の教科教育、特別支援教育、子供の貧困対策等の専門家を含む11名の有識者委員、国公私立大学など7名の団体代表委員によって構成され、大学入試センター理事長がオブザーバーとして参加している。今回は、詳細な大学入学者選抜の実態調査や全大学・全学部へのアンケート調査をかなり大掛かりに実施している。今後は大学入学者選抜協議会という新たな常設の会議体が、この提言を引き継いでいくことになる。 以下検討事項を列記しておきます。
第1章大学入学者選抜のあり方と改善の方向性
「理念や結論が過度に先行し、実務的な課題の解決に向けた検討が不十分」だったと批判している点が目新しい。また、大学入試センターに対しては、「テストの質を維持した上で、安定的で確実な実施を一層重視する方向で改善していくことが適当である」として、今までの入試センターの路線の継承を支持している。
第2章記述式問題の出題のあり方
結論から言えば、50万人以上が受験する大学入学共通テストにおいては、その実現は困難である、と判断している。記述式は個別試験で対応したり(現に多くの国立大学ではそうしている)、総合型選抜(従来のAO入試)や学校推薦型選抜(従来の推薦入試)で取り組むべきである。しかし、そうしたとり組みは必ずしも広く行われていない。
第3章総合的な英語力の育成・評価のあり方
4技能を別々に扱うのではなく、技能統合的な言語活動として外国語教育を考えるべきとしている。その観点から、本提言では「総合的な英語力」という表現を使う。私も長年外国語教育に現場で携わってきたが、同感である。ライティングやスピーキングテストの実現は、「技術の飛躍的な進展等がない限り困難であると言わざるを得ない」として、記述同様、個別試験での対応を促している。であるならば、今後の共通テストで従来通り発音の問題や整序問題も復活させるべきではないかと考える。
また、外部の資格・検定試験を大学入学共通テストの枠組みで活用することも、「その実現は困難であると言わざるを得ない」と結論付けている。それぞれの大学のアドミッション・ポリシー(入学者受け入れの方針)に基づいて利用していけばよい。問題は、大学で英語力がどのように育成されているかである。
第4章地理的・経済的事情、障害のある受験生への合理的配慮
第5章ウィズコロナ・ポストコロナ時代の大学入学者選抜
第4章、第5章は文科省のHPで確認願います。これで新しい学習指導要領のもので入試が行われる令和7年度大学入学者選抜のなかでも、大筋上記方針の下で入試が実施されることになりそうです。ただし、来年度の共通テストは今年より平均点が低下することが予想されます。問題が難化するというよりも、難度の高い問題の配点を高くすることが予測されます。