(1) $x>0$のとき, 不等式$\log{x}\leqq x-1$を示せ。
(2) 次の極限を求めよ。
\[\lim\int_{1}^{2}\log{\left(\df{1+x^{\frac{1}{n}}}{2}\right)}dx\]
ここ数年の傾向としては、第2問は難易度的に比較的穏やかな印象でしたが、昨年度・今年度と2年続けて本格的な数学IIIの問題が出題されました。
(1)は簡単です。直接示してもよいですし、有名事実「指数関数$e^x$の$x=0$での傾きは$1$である」ことから、グラフを描けば、$e^x\geqq x+1$が見てとれます。$t=e^x$で表現すれば、$t\geqq \log{t}+1$となります。
(2)が本問の本丸です。「まぁ(1)の結果を使うんだろうなあ?」と推測して、使ってみましょう。
\[\log{\left(\df{1+x^{\frac{1}{n}}}{2}\right)}\leqq \df{1+x^{\frac{1}{n}}}{2}-1
=\df{x^{\frac{1}{n}}-1}{2}\]
とりあえず$x=1$から$2$まで積分してみましょう。
\[\int_{1}^{2}\log{\left(\df{1+x^{\frac{1}{n}}}{2}\right)}dx\leqq
\int_{1}^{2}\df{x^{\frac{1}{n}}-1}{2}dx\]
右辺は、頑張れば積分できますね。
\[\int_{1}^{2}\df{x^{\frac{1}{n}}-1}{2}dx
=\df{1}{2}\left[
\df{n}{1+n}x^{\frac{1+n}{n}}-x
\right]_{1}^{2}
=
\df{1}{2}\left\{
\df{n}{1+n}\left(2^{\frac{1+n}{n}}-1\right)-\left(2-1\right)\right\}
=
\df{n}{1+n}\left(2^{\frac{1}{n}}-\df{1}{2}\right)-\df{1}{2}
\]
さらに、これを$n$倍して、極限$\lim$をとるのですが、括弧の中を見て「惜しい!」と思えるか?どうかです。仮に括弧の中が$\df{1}{2}$でなくて$1$ならば、
\[\lim\left(2^{\frac{1}{n}}-1\right)
=\lim\df{2^{\frac{1}{n}}-1}{\df{1}{n}}=\log 2\]
有名事実「指数関数$2^x$の$x=0$での傾きは$\log 2$である」が使えます。とりあえずこの部分だけでも、それにして、後は野となれ山となれ?帳尻合わせに走りましょう。
\[\df{n}{1+n}\left(2^{\frac{1}{n}}-\df{1}{2}\right)-\df{1}{2}
=
\df{n}{1+n}\left(2^{\frac{1}{n}}-1\right)+\df{n}{2(1+n)}-\df{1}{2}
=
\df{n}{1+n}\left(2^{\frac{1}{n}}-1\right)-\df{1}{2(1+n)}
\]
で帳尻合わせができたので、いざ計算すると、
\[\makebox[-1em]{}
\lim\int_{1}^{2}\df{x^{\frac{1}{n}}-1}{2}dx
=
\lim\left\{\df{n}{1+n}\left(2^{\frac{1}{n}}-1\right)-\df{1}{2(1+n)}\right\}
=
\lim\df{n}{1+n}\df{2^{\frac{1}{n}}-1}{\df{1}{n}}-\df{n}{2(1+n)}
=\log{2}-\df{1}{2}
\]
と上手く極限値が求まりました。
ここまでで、
\[\lim\int_{1}^{2}\log{\left(\df{1+x^{\frac{1}{n}}}{2}\right)}dx\leqq
\log{2}-\df{1}{2}\]
が示せました。
「はさみ打ちの原理」を使うには、下から抑え込む不等式も必要です。
下側から何で抑え込むか?これが難しいです。厳し過ぎると計算不能ですし、甘過ぎるとはさみ込んでくれません。
例えば敢えて失敗例。題意の関数$y=\log{\left(\df{1+x^{\frac{1}{n}}}{2}\right)}$は$x=1$で$y=0$、
$x=2$で$y=\log{\left(\df{1+2^{\frac{1}{n}}}{2}\right)}$となる上に凸の関数なので、同じ両端の点を通る直線
$y=\log{\left(\df{1+2^{\frac{1}{n}}}{2}\right)}(x-1)$で下から押さえられます。これの$x=1$から$2$までの積分値は
\[\int_{1}^{2}\log{\left(\df{1+2^{\frac{1}{n}}}{2}\right)}(x-1)dx
=\left[\df{1}{2}\log{\left(\df{1+2^{\frac{1}{n}}}{2}\right)}(x-1)^2\right]_{1}^{2}
=\df{1}{2}\log{\left(\df{1+2^{\frac{1}{n}}}{2}\right)}
\]
これを$n$倍して、極限$\lim$をとるのですが、相変わらず
\[n\log{\left(\df{1+2^{\frac{1}{n}}}{2}\right)}=
\df{\log\left(1+2^{\frac{1}{n}}\right)-\log\left(1+2^{0}\right)}{\frac{1}{n}}\]
のように関数$\log\left(1+2^{x}\right)$の$x=0$での微分係数に帰着して計算すると極限値は$\df{1}{4}\log{2}$となってしまいます。これは上手くはさみ打てません。所詮、三角形くらいでの近似では甘かったようです。
題意の関数$y=\log{\left(\df{1+x^{\frac{1}{n}}}{2}\right)}$の真数部分$\df{1+x^{\frac{1}{n}}}{2}$を凝視すると「足して2で割る」平均が想起されます。
そこで相加・相乗平均の関係を2つの正数$1, x^{\frac{1}{n}}$に適用して
\[\sqrt{1\times x^{\frac{1}{n}} }\leqq \df{1+x^{\frac{1}{n}}}{2}\]
左辺は$\sqrt{x^{\frac{1}{n}} }=x^{\frac{1}{2n}} $なので、これの自然対数をとって、$x=1$から$2$までの積分して、$n$倍したものの極限$\lim$は
\[\lim\int_{1}^{2}\log x^{\frac{1}{2n}}dx
=\df{1}{2}\int_{1}^{2}\log xdx
=\df{1}{2}\left[x\log{x}-x\right]_{1}^{2}
=\df{1}{2}\left\{\left(2\log{2}-2\right)-\left(0-1\right)\right\}
=\log{2}-\df{1}{2}\]
と計算できて、上手くはさみ打てました。
\[\log{2}-\df{1}{2}\leqq\lim\int_{1}^{2}\log{\left(\df{1+x^{\frac{1}{n}}}{2}\right)}dx\leqq
\log{2}-\df{1}{2}\]