英作文の指導をしていると、生徒が普段教えている書き方を急に変えて書いてきて、なぜかとたずねると「学校で今日そう習いました」と言うようなことがたまにあります。定期試験で生徒がこちらで教えた書き方をして減点されているような場合はさすがに抗議するよう促したりますが(大学付属校の生徒で推薦がかかっている場合などには一大事です)、そうでない場合はこちらで教えている方が正しい根拠を生徒に示すだけで終わることが多いです。その学校の先生と仲がいいとか、あるいは生徒に間違いを指摘されても聞く耳を持つ理解のある先生であれば生徒も言いやすいでしょうが、そうでなければ躊躇するのでしょう。実際に学校の先生の方で勘違いしている場合もあるでしょうが、生徒の方で先生の話を正確に聞き取っていなかっただけの場合もあるかも知れません......

ある英語表現が正しいかどうかを生徒が確認する時には、参考書を参照することが多いと思います。英和辞書だと生徒にとっては記述が少々煩雑・冗長だったりしますが、その点、参考書だと理解しやすいよう簡潔に書かれているので使い勝手が良いわけです。ただ、それがあだになることもあります。

例えばagreeという自動詞の用法などがそうです。Google検索するとたくさんヒットする定番ネタのようですが、学校英語/受験英語で(かつて)教えられていた「agree with <人>」「agree to <事物>」という簡略した定義をそのまま丸暗記していると、英作文を書く際などにやっかいなことになります。なぜなら「agree with <事物>」の形もあるからです。むしろ、意見作文において主張を書く際などには「I agree with the opinion....」の形式の方が定番であり、「I agree to the opinion....」だと意味が少し変わってしまいます。「agree to」はあくまで相手の「提案や計画」に「応じる」という意味での「同意」であって、相手の意見が「正しいと認め、自分と同じ意見だ」という意味での(つまり意見作文で求められているところの)「同意」ではないからです。本当は相手と同意見ではないけれど、何らかの事情で相手の申し出を渋々承諾するような場合もあるわけで(例:I can't agree with your opinion wholeheartedly but agree to your proposal nonetheless.)、その際は相手の申し出に対して「agree to」を用います。さらには、ちゃんと「I agree with the opinion....」と書いていても、先生や模試の添削者のほうで勘違いしていて×をつけてしまうこともあるようです(大学入試制度改革による4技能英語試験に対応すべく自由英作文が学校の授業でもどんどん導入されていますから、よっぽど怠慢な教師でもない限りさすがに今後はこのようなことも少なくなるでしょうが...)。

上述の2つの簡略化された定義自体は必ずしも間違いではありません。実際の参考書でも以下のように書かれています:

英熟語ターゲット1000

  • agree to 〜:〜に同意する。▶︎「提案・計画・条件」などについて使う...。If Tom agreed to the plan....

  • agree with 〜:(人が人・考えなど)同意する。Mary didn't agree with her mother....

基本、一つの単語・熟語につき定義一つと例文一つのセットで覚えていきますから、上記のような場合は赤字の大文字だけで覚えてしまいがちです。すると「agree with」は人を、「agree to」は事物を目的語に取ると覚えてしまうのも無理はないでしょう。括弧内の小文字の「考えなど」に目は行きません。シス単やDuoなど他の単語集でも基本変わりません。語法の参考書ではどうでしょうか:

Next Stage

  • agree with A:A(人・考え)に同意する。I agree (with) him.

  • agree to A:A(提案など)〜に同意する。Everyone in my family agreed (to) my proposal. 通常toの後には「人」は来ない。

例文は「agree with <人>」「agree to <事物>」の形式の一文ずつのみ、さらに「toの後には人は来ない」との注意書きまであれば、「withの後は人しか来ないに違いない」と思い込んでしまっても仕方ありません。括弧内の小文字の「考え」については解説も例文も何もありませんからスルーしてしまうのも当然でしょう。生徒は何千個という単熟語を暗記していくわけですから、一つの項目を精読している余裕はありません。

Forestやロイヤル英文法などの文法書でも、agree with/toに関する記述は基本同じような感じです(これらの文法書では、agree with/toという熟語自体の説明としてではなく、あくまで自動詞+前置詞の用例の一つとして上げているだけではありますが)。

英和辞書ではどうでしょうか:

ランダムハウス英和大辞典

  • ①(人と)(...について)同じ意見を持つ。I don't agree with you [or your opinion].(私の意見は君とは違う。)

  • ③〈人が〉(提案・計画などに)同意[賛成]する、(特に不同意・議論の後で)承諾する。Do you agree to the conditions?(その条件に応じますか。)

新英和中辞典

  • 1b〔+to+(代)名詞〕〔申し出などに〕応ずる,同意する。I agreed to the proposal.(その提案に同意した。)

  • 2b〔+前置詞+(代)名詞〕〔人と〕意見が一致する,同じ考えである〔with〕。I agree with you about the need for it.(その必要性についてはあなたに賛成です。)

...あんまり変わらないですね。

ピンポイントで意味を知りたい場合には英和辞典が有用ですが、ある英語表現が確実に正しいかどうか確認したい場合には、英和辞典や日本の英語参考書よりも英英辞典を確認するほうが良いです。

Longman

agree with somebody/something
  • You agree with someone: I agree with Tanya.
  • You agree with an opinion意見 or statement言明: He agrees with this view.
agree to something
  • You agree to a plan計画 or suggestion提案: They agreed to all our proposals.

Webster

Definition of agree with: to regard (something) with approval. Do you agree with capital punishment?

Oxford

agree: Have the same opinion about something; concur. 'I completely agree with your recent editorial'

英英辞書で見つからない場合は、British National Corpusなどのコーパス(語彙索引など言語研究のための資料。特にコンピューターを利用してデータベース化された大規模な言語資料。)で用例を探してみましょう。

British National Corpus

  • agree with the opinion: I agree with the opinion of my Lord, Lord Lowry....

  • agree to the opinion: ヒットなし。

それでもなければGoogle Booksで検索します:

Google Books

  • The Parliamentary Debates Volume 5(イギリス国会の議事録、1822年):He could neither agree with the opinion of those who thought that all the proceedings of the House were in perfect conformity with the wishes of the people....

ただし、Google検索はしっかり出典を確認する必要があります。英語が不自由な人が書いた文章の可能性もあるらです。

最終手段は英語ネイティブの人に質問します。ただ、彼らもほとんどの人は英語学の学者とかではありませんから、単にその言い回しが自然かどうか(そして不自然な場合はどう言い換えればいいか)しか教えてはくれません。


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