平成23年度の自治医大の英語の入試問題の大問1は、ネイティブアメリカン(かつては「インディアン」と呼ばれたアメリカ大陸の先住民)のメンタルヘルス問題を扱うJames Burgess Waldram著『Revenge of the Windigo: The Construction of the Mind and Mental Health of North American Aboriginal Peoples』からの抜粋で、「ネイティブアメリカンはアル中の酒乱だ」という昔からある人種的偏見の妥当性を検証するような内容になっています。
実際アルコール依存症はネイティブアメリカンの間で大きな社会問題になってはいるのですが、これは無論彼らがアルコールに耽溺する粗野で怠惰な人種であるからということではなく、①ネイティブアメリカンがヨーロッパ人に比べ遺伝的にアルコール耐性が低いことと、②「インディアン居留地(Indian reservation)」に移住を強いられて先祖伝来の住み慣れた土地と自活の道を奪われアルコールに逃げ場を求めざるをえなかった結果であり、そもそも③ネイティブアメリカンに独自の飲酒文化はなく、ヨーロッパ人の飲酒文化を取り入れたことに端を発しています(参照:ワシントンポスト紙、ウィキペディア)。
それで、問6にこのような問題があります:
正解の選択肢はどれでしょうか? 前後の文脈から考えれば選択肢Aが適切です。しかし下線部(6)の「very few Indians had no experience with alcohol prior to its introduction by Europeans」とは一体どいうことでしょうか? 「quite a few(かなり多数)」ならわかりますが、「very few(極小数)」のネイティブアメリカンが「had no experience(アルコール経験を持たなかった)」では二重否定のようになり、ほとんどのネイティブアメリカンがヨーロッパ人により飲酒文化が導入される以前より飲酒経験を持っていたことになってしまいます。この文だけを取れば正解はBになってしまいますが、文脈的には明らかにおかしな話になります。
原文では以下のようになっています:
数カ所改変されていて、厳密な抜粋ではなく翻案(adaptation)になっています。それ自体は別に構わないのですが、問題の部分は元々「the vast majority of Indians had no experience with alcohol(大多数のネイティブアメリカンが飲酒経験を持っていなかった)」であり、意味が真逆になっています。
ネイティブアメリカンが酒を飲むようになったのはヨーロッパ人により酒が新大陸にもたらされてより後からのことであり、さらに(ネイティブアメリカンに対する偏見である)深酒して暴れるような飲酒の仕方もヨーロッパ人から学んだものであり、ネイティブアメリカンは当初は飲酒の際そのような問題行動(「problem behavior」)は起こさす、むしろ「抑制(restrained)」された、酒を「避ける(avoidant)」ような態度だったとあります。原文のこの部分は抜粋文では省略されており、省略すること自体は別に大きな問題ではありませんが、どうもこの箇所で用いられた「very little」がその後に続く翻案された箇所に「very few」になって紛れ込んでしまったようです。
コメント