10月号では、古英語に於いてthattheの「中性・単数・主格・対格(=目的格)」変化であり、soasthattheだということを解き明かした。さらにthatは「関係代名詞」のみならず「関係副詞」としての用法もあることも、受験生諸君ならご存知のはずだ。それは「the way how S+V」は×だが「the way that S+V」は〇であることからも推察されよう。以上を念頭に読んで欲しい。(1)は既に上梓(じょうし)したものの加筆・修正版だが、話の流れ上再度掲載した......

(1)the rich:「裕福な人々」の怪

「the+形容詞」で「~のような人々(人)」を表す。the richで 「お金持ち」 という意味になる。 これを 「the rich (people)の省略である」と教えている予備校もあるやに聞き及ぶ。だがこれは間違いだ。the rich peopleでは「そのお金持ちの人々」となってしまう。the richrich peopleで「(一般に)お金持ちの人々というものは...」という意味だ。確かに。theは「冠詞」である。冠詞は分類学上「形容詞」なのだから後ろに「名詞」を補いたくなる心理は分からないでもない。しかしちょっと考えれば「あれ?」と思うはずだ。では以下「鈴木説」をご紹介しよう。

Borg ギリシャ語の定冠詞<the>(因みにギリシャ語に不定冠詞<a/an>は無く、ラテン語では冠詞自体が存在しない)には、 「とんでもない機能」がある。何と「あらゆる品詞を修飾し名詞化」してしまうのだ。まるで「スター・トレック」に登場する「ボーグ」のようだ(紙幅の関係でボーグの説明は割愛) 。例えば英語で言うthe inなどという、出鱈目とも思える表現が許される(よい子は真似しないで下さい!!)。意味は「中にある物」とか「中にいる人」だ。 「人」か「物」か...は簡単に区別できる。theはギリシャ語では曲用(格変化)を起こすので、これが「中性・単数・目的格」に変化していれば「中にある物を...」であり、 「男性・複数・主格」に変化していれば「中にいる男たちは...」となる。さらにこの冠詞は「節(S+V)」すら名詞化する。the S+Vとすれば「S+Vであること」となるわけだ。ここで「あ!」と気づかれた方は流石である。そう、「~ということ」 のthat S+Vと使い方が全く同じなのだ。 また研究社の大英和辞典を紐解くとthatは「το[ト]と同根」 ともある。τοはギリシャ語の定冠詞で「中性・単数形」だ。 「名詞だからtheがつく」のではない。「theがつくから名詞になる」のだ。


(2)I think that S+V:thatは接続詞ではない!

  • When I was young, I lived in the US.
    「若いころアメリカに住んでいた」 ...①
前回少し言及したが、接続詞ではない証拠をさらに提出したい。まず接続詞とは、①の「S+V when S+V」の如く2つのS+V を結ぶものだ。そして S+V はいずれも「完全文(SもOもCも欠けていない文)」が来る。当たり前の話だ。しかし以下の文はどうだろう?
  • I think that he is honest.
    「私は彼が正直者だと思う」...②
he is honestはいい。しかしI thinkは目的語を欠いている。「that he is honest自体が目的語」なのだから当然である。つまりthatは接続詞ではない。さらに凄い例文を出そう。
  • That he is honest is true.
    「彼が正直なのは本当だ」...③
he is honestはOKだ。だがもう一つの文はどうか? is trueは何と「主語がない」。「首無し」だ。何とも無残である。ラテン語や日本語ならそれもいい。主語が存在しない文などゴロゴロある。しかし英語という言語は決してそれを許さない。「文型(SVOC)」と言うものがあるからだ。he is honestthatで「名詞化」し、それを「I think+O」のO の位置に「ぼこっ」とはめ込んだだけだ。トレーラーの台車の上にコンテナをドンと置いたわけだ。トレーラーと台車は最初から繋がっている。「連結器(接続詞)」など必要ないのだ。


(3)the news that S+V:同格のthat?

  • I heard the news that he died.
    「彼が死んだという知らせを聞いた」...④
the news「知らせ」=that he died「彼が死んだこと」だが、これもhe diedthatで「名詞化」しているのであって「接続詞」などというものではない。簡単に書けばI heard A, B.「AすなわちBを耳にした」ということだ(同格の場合コンマは任意)。こういった同格用法も古代ギリシャ語ではよく見られ、深堀りするとこれがまた面白いのだが、紙面の関係上他日を期す。


(4)the比較級,the比較級:「〜すればするほどますます⋯」の怪

  • The higher you go up, the colder it becomes.
    「高く上れば上るほど、ますます寒くなる」...⑤
御存知 「比較」 で必ず登場する意味不明な構文だ。 まず不可解なのは 「S+V が2つあるのに接続詞らしきものがない」という点だ。つまり2つのtheのどちらかが「接続詞」の役割を担っていることになる。「接続詞」の役割を果たすものは「接続詞本体」か「関係詞」しかありえない。結論から言おう。①のtheが「関係副詞」であり②のtheが「副詞」である。分かりやすく書き変えれば以下のようになる。
  • ⇒ By how much higher you go up, by so much colder it becomes....⑥
  • ⇒ (By) how (much) higher you go up, (by) so (much) colder it becomes....⑦
「どれだけ(=how much)高く上ったか、その上った分だけ(=by)、それほど沢山の(=so much)分だけ(=by)寒くなる(10月号の「相関構文」参照)」となる。that は「関係代名詞」のみならず「関係副詞」の役割も果たす。つまり howthattheである。関係副詞のhowは「手段・方法」が有名だが「程度」も表す。その場合「先行詞」は敢えて探せばthe extent(程度)となろうか...。一方 soasthattheだとも述べた。故に sotheであり、⑥から⑦、そして⑤が導かれる。muchが間に入っているのは、howは後ろに「原級」は取れるが「比較級」は取れないからだ。


(5)all the more for 〜 / because S+V:「〜であるが故にさらに一層⋯」の怪

  • I love her all the more for her faults.
    「欠点があるが故に(=forその分だけ(=theさらに(=more)彼女が好きである」...⑧
ここまでくれば説明は不要だろう。(4)で説明した「副詞」のthe(=by so much)「その分だけ...」である。またallはこれも既に説明した「強調」のall10月号参照)だ。単なる「強調」ゆえ省略も可能。となると手がかりは「the+比較級」のみであり、裏を返せば出題された際は手強い敵となる。


(6)none the less for 〜 / because S+V:「〜にも関わらずそれでも⋯」の怪

  • I love her none the less for her faults.
    「欠点があるがそれでも彼女が好きである」...⑨
(5)の逆バージョンが(6)の構文だ。「欠点ゆえに(=for)その分だけ(=the)彼女を愛する気持ちが少なく(=less)なることはない(=none)」となる。nonelessで「二重否定」 、つまり「肯定」となる。

どうだろう? これまで意味不明だったthat / theに関連した構文が、なぜそうなるのかご理解いただけただろうか? thatthisと仲良く並んで中1の最初に登場する。だから兄弟のようなイメージがある。しかし実は「赤の他人」なのだ。同時にお披露目を済ませたにも拘わらず、thisはその後「売れない演歌歌手」よろしく全くの「泣かず飛ばず」。一方thatは「指示代名詞」「指示形容詞」「接続詞」「副詞」「関係代名詞」「関係副詞」...と、まさに英語という言語はthat無くしては「日も夜も明けぬ」ほどの「大車輪」「八面六臂(ぴ)」の活躍ぶりである。「英語はthattheでできている」と言っても過言ではないのだ。


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